第3話 『私、初めて悪魔の考えが分かった気がする……』

「おいおい、それはこっちの台詞だぜ。お前が天界から出て行くのが見えてよ、門番に聞いても教えてくれねぇし」


 口止めはちゃんと守ってはくれていたみたいだが、まさか出て行く姿を見られていたとは……不覚。


「一人みたいだったし、心配になって見回りが通り過ぎたのを見計らって塀を飛び越えて追いかけてきたんだ」


見回りは何やってんだ!? というかわざわざ門から出ずにジェイの様にすれば楽だったし見つからずにすんだし! 私は馬鹿か!?


「で? エリンは何をしにこんな所にいるんだ?」


 まずい、門番はベデワルの命令として誤魔化せたがジェイは同じ部隊だから怪しまれる可能性が……。


「エリン、どうし――ってなんじゃこりゃ!? 悪魔の……死体? これはエリンが倒したのか?」


「あ、ああ……」


 どうする、どう誤魔化す……。


「ん? その剣から魔力を感じるが……それ、魔剣か? こいつらが持っていたのか?」


 魔剣……そうだこれをダシに使えば。


「ああ! この魔剣の存在が分かってな、それでここに来たんだ」


「なんだそれ、俺は聞いてねぇぞ?」


「そ、それは極秘に進められていた他の部隊からの情報でな。実は私もその部隊に関っていて、下級悪魔如きが魔剣を持つと何が起こるかわからないと判断して至急の回収せねばと!」


 どうだ!? 自分でもかなり怪しいけどどうだ!?


「……はぁ!? なんだよそれ!?」


 あ~やっぱり無理があったか。


「お前、他の部隊にも関ってたのかよ。やっぱエリンばっかり優遇されてねぇか!? うらやましい! 俺も手柄がほしい!!」


 ……さすがジェイちょろい……ってそれ以前に天使って実は馬鹿ばかり? 私も含めて、になるけど。

 しかし、こうなってしまうとブソーヘイズを手放すしかないようだな。


『さすがですね』


「フッそうだろ、私の演技力も――」


『いえ、その事ではありません。天使の魔力は悪魔より強力だという事です』


 私を褒めたんじゃないのかよ! って――。


「え? そうなのか?」


 それならば悪魔に優勢に立ってるのも納得がいくな。

 だとするとアブソーヘイズを手放すのは本当に惜しい……。

 ……コノ魔剣ガアレバ私ハ強クナレルノニ。


「ん? 今誰かとしゃべってたか?」


 ……魔力ガアレバ強クナレルンダ。

 ……奪ワレテタマルカ、コノ魔剣ハ私ノ物ナンダ!!


「……何でもない、それより聞きたい事があるんだがジェイは……誰かと一緒にここに?」


「いや? 俺一人で来たぜ」


「では、私が外に出た事を誰かに話したのか?」


「急いできたからな、シルバに話す時間もなかった。怒るだろうな~お前も同罪だから一緒に怒られろよ?」


「そうか……内緒で一人で来たのか、それは……よかった……」


「あん? まさかエリン、俺と2人っきりになるのがそんなに嬉しいのか?」


「ああ、とってもな……」


 すごくすごく。


「何だよ、そうならそうとはや――がはっ!」


 背後には気を付けろといつも言っているのにやはり馬鹿奴だ、色々と。


「なん……で……?」


「すまないな、ジェイ……お前の命と魔力を貰うぞ」


「エ、リ……ン……」


「……クス。おい、魔力を吸収しろ」


『了解です』


「ぐぁあああああああああああああああ!!」


 私ノ物ヲ奪オウトシタ報イダ。


「あ――ぁ――――――」


『生命活動も停止を確認、この天使の魔力を全て吸収しました』


 ああ、魔力は生命から作られるから全て吸うと死ぬのは当たり前か。まぁどの道始末するつもりだったから手間は省けたな。


「バイバイ、ジェイ」



「――っとこれでよし」


 ジェイの死体はこの崖から落としとけばいいだろう、こんな所で見つかるわけがないしな。


「それではさっきの天使から吸収した魔力を私に送れ」


『了解』


「おお!?」


 本当だ!! さっきとは大違いの魔力が体を流れていく!!

 ジェイでこの魔力なんだベデワル、いやさらに上の上位天使の魔力は相当のはず……クスクスクス! そいつらの魔力を吸い尽くせばなれる! 悪魔よりも天使よりもはるか彼方の上の存在として、天界と魔界の頂点に君臨する事も容易い!! クキャキャキャキャ!!



 危ない危ない、興奮のあまりこんな姿で天界に帰る所だった、さすがに帰る前にこの返り血を何とかしなければ。

 そうだな……魔界の水は濁っているから着ている鎧もろとも浸かって血を誤魔化すか、汚くなるのは嫌だがしかたないよな……何処かに川か湖がないか……お、あれは池か。


「……うそ……」


 ……すごい透き通っている。

 空を飛んでいる時は汚い水と思っていたが何故? そうか、魔界の空の色が反射していたからそう見えていたのか。

 この水だと体も洗えるじゃないか! ――よし、周辺に生物反応はない、さっさとこの血生臭い鎧を脱いでっと、いや~これで体も洗えてすっきりになれる――。


「ぞぎゃ!?」


 なっ何だ!? 見えない壁があるだと!? いつも間にそんなものが!?


『どうかされましたか?』


「どうしたもこうしたもない! ここに見えない壁があるんだ!」


『ああ、それはそうです、私を置きっぱなしにしていますから』


 は!?


「それはどういう事だ!?」


『私とマスター現在、繋がっています。ですから一定距離から離れられないのです』


「繋がっている!? 離れられない!? まさかお前を持っていないとこれ以上進めんのか!?」


 アブソーヘイズとの距離は約1mくらいかないのだが!?


『そうなりますね』


 なりますねって……いやいやいや!


「おかしいだろ! 何故私が合わせないといけないんだ!? 普通は剣が私に合わせるものじゃないのか!? こう、剣よ来いと念じれば剣が飛んでくる的なものじゃないのか! 仮に良しとしてもこの範囲は狭すぎる!」


 いくら高性能な能力だとしても、こんな制限はたまったもんじゃない!


「何とかできないの!?」


『それは無理です、私の本体の基礎能力の為に切る事は不可能です」


「――っ!! ええい、まったくもう!!」


 剣と一緒に水浴びする羽目になるとは……他の者が見たら色気のない、なんてシュールな絵図と思われそうだ、覗かれたくないが。

 しかし、そんな制限あるのならこいつを四六時中持ってないといけないとは……ハッ!! 失敗作の理由ってこれじゃじゃないのか!?

 だとすれば試験中に常に身につけていたのはのも頷けるし、それが煩わしくなり捨てたと……うん、この仮説が一番しっくり来る、というよりそれしか考えらない。


「私、初めて悪魔の考えが分かった気がする……」

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