第2話 『私はフェリシア。フェリシア・メレディス……です』

「あ~づ~い~……オアシスはま~だ~?」


「……暑いのは皆同じだ、一週間ずっと同じことを言わすな……まったく」


「ぶ~ぶ~! だって暑いもんは暑いし! 声に出ちゃうよ!」


 あ~本当にやかましい、この砂漠の旅はこいつのせいで余計きつくなってないか?

 しかし……文句がでるのはわからんでもないがな……あれから結構歩いたが、いつ着くのだ? そもそもこんな辺鄙な所に本当に人が住んでいるのか!?

 ……もしやあの門番にだまされたのではあるまいな、だとしたらあやつらを八つ裂きにしてくれるわあああああああ!!


「お? あれじゃないか? ……オアシスに一軒家が見えるぞ」


 ん!? 今なんと!?


「やっと着いたか!? ――どこだ!?」


「ほれ、あそこじゃ」


 爺さんの指の先には――。


「……家どころかオアシスもないではないか……爺さん暑さでとうとうやられたか?」


 どこをどう見ても砂、砂、砂、砂しかない。

 まったく! ぬか喜びさせよってこのジジイ!!


「失礼な奴だな! わしは目がいいのが自慢じゃ、よく見んか!」


 よく見んかって言われても……ないものはないのだが。


「あ! ほんとだ! 家が建ってるね!」


 なぬ!?


「どうやらあの門番の言ってたとことは本当だったみたいですね、良かったです」


 え!?


「きっ貴様等見えるのか!?」


「うん? 見えてるけど……デールはあの家が見えないの?」


「それほど目が悪いのですかあなたは?」


 ぐぬぬぬ!! 我輩の本当の体ではないのにこの屈辱感はなんなのだ!?


「あ、もしかしたらあの虫よけの結界せいでは?」


「虫よけの結界だと!?」


 何故結界が張ってあるのだ? ――いやいやその前に。


「何故それで我輩には見えぬのだ!?」


「ああ~そういう事か」


 どういう事だよ! 我輩だけ置いてけぼり!


「ほらこの砂漠にはいろんな虫がいたでしょ?」


 いたな、わんさかと……それも毒をもったやつとか。


「いたが、だからそれと我輩が見えないのと何の関係が?」


「虫や動物に視覚や方向感覚を狂わす微弱な結界なんです……ですから普通……人には効かない……もの……でして」


 それはつまり……え~と……。


「今の我輩は虫と同等と言うわけ……か?」


「そうなっちゃうね」


「そうなっちゃうね……ではない!! 人の我輩が何故見えぬ!? ――呪いの剣で我輩の魔力を吸っているせいではないか!?」


「だから! 天使の剣は呪いの剣じゃないってば! そしてアブソーヘイズのせいでもないよ!」


「ぎゃ~ぎゃ~とうるさいの! 喧嘩はそこまでじゃ! この! この!」


「あだっ!」

「ぎゃふん!」


 何故いつもこの爺さんに殴られなければならぬのだ……。


「はぁ……とにかく行ってみましょう」


 といっても何もない方向に向かっても――。


「うお!? なんだこれは!?」


 オアシスと小さな家が急に現れた!?


「結界内に入りましたからね」


 これがオアシスの家か。

 エリンが、いやあの門番達が言っていたオアシスの魔女がこの家に?



「では、尋ねてみましょうか」


 ……さて魔女とは一体どんな奴だろうか。


「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」


《……はい……》


 か細い声が聞こえたな、人が住んでいるのは間違いないようだ。

 …………お? 扉が少し開いたぞ。


「……あの……どなた……です?」


 扉の隙間から覗き込んでるせいで姿がちゃんと見えん、声からしてまだ幼い感じだな。

 コレでは少年とも少女ともわからん、魔女の子供か孫か……はたまたこいつが?


「すみません、私達は――」



 さて、事情を話したが……一切反応がない。


「……」


 見えないが、一応考えてはくれている……のか?


「えと……その……」


 お、やっと反応が。


「……申し訳ないのですが……お泊めする事は……できません……です」


 せっかくここまで来たのに! そんな馬鹿な!!


「ですから……お引き取り……ください……です」


 ああ! 扉が閉められる!


「ちょっとまってぇえええええ!! ――イタタタタタタ!!」


「きゃっ!」


 エリンの奴が隙間に指を突っ込んだ!!

 ナイスだ、なんとかここで踏ん張って泊めてもらうのだ!


「イタタタタタタ!! お~ね~が~い~!! イタタタ!! もう1週間もイタタタ!! 砂漠の中をイタタタ!! 歩いてイタタタ!! ゆっくり眠れないしイタタタ!! まともなゴハンもイタタタ!! 食べてないのイタタタ!! おいしいゴハンが食べたいのおおおおおおおおッイタタタ!!」


 なんという魂のこもった言葉だ、必死さがすごい……。


「な!? 寝床はともかく食事ならきちんと取れてたじゃないですか!」


 あれがまともな食事だと思ってるのはベルトラと爺さんくらいだろうな。

 いやそれよりこいつの説得を!


「ベルトラそんな事より今の事が大事――」


「そんな事ってなんですか!? ……いや、そうですね、今はこっちが優先ですね。――お願いします! どうか! ほら! デール殿も頭下げて!」


「は!? 何故我輩が頭を下げなければならっ……ちょっ!? 爺さん!? 何我輩の頭を掴んで――」


「いいから下げるんじゃ!」


「いでででででででで!!」


 力ずくで頭を下げさせてよった! 物凄い力で押さえつけてきて……このままでは首の骨が折れるううう!!


「その……でも……」


「イタタタタ! お~ね~が~い!!」

「お願いします!」

「どうかこの通り!」

「うがあああ!! くっ首が!!」


「………………分かりました……今日一泊でいいのでしたら……」


 やっと扉が全開になった……。

 ふむ、出てきたのはエリンよりも身長が低い……少年? 少女? ……黒いローブにフードを深々と被っているせいで結局出てきてもかわからぬな。


「ありがとうございます!」


「助かったわい」


「やったぁああああ!! っイテテテ……」


「なぁ爺さん、いい加減その手を離してくれないか……」


「おっと、すまんすまん」


 泊まれるようだが代償は大きかった……エリンの指は腫れ、我輩の首は曲がったまま……。


「あ、申し遅れました。私はベルトラ・トゥアンと申します」


「わしはダリル・ボールド」


「アタシはエリンで、こっちがデール!」


「そして我輩が……っておい! 何故貴様が我輩の名前を言うのだ!?」


「いいじゃん別に、ついでだし」


 ついでに言われてたまるか!!


「あの……私はフェリシア。フェリシア・メレディス……です」


 ふむ、少女のほうかであったか。

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