第3話 『その方はどうかなされました?』

「えと……中へ、どうぞです」


 中に誘われたが……暑さから逃げたいのと泊まる事に必死でここが魔女の家なのをすっかり忘れていた。

 ……いまさらだが中に入っても大丈夫なのだろうか。


「おっ邪魔しま~す!」


「失礼します」


「お邪魔しますわい」


 エリンは魔女の事わかっているのに躊躇なしで入りやがった……いや、あれはただ単に忘れてるだけか。人の事は言えないが。

 ……よし、皆が入っても何も起こっていない様だし安全は確保されたな、これなら中にはいっても問題あるまい。

 ――ふむ、中はいたって普通の家みたいだが……む?


「なぁ、他に人はいないのか?」


「両親はその……事故で……なのでこの家には……私一人で住んでいます」


「ふむ、そうなのか」


…………………………あ。


「デール……」

「デール殿……」

「勇者殿……」


 そんな冷たい目でこっちを見るなよ! 我輩だってやってしまったのはわかるわ!

 人間なんぞに頭を下げるのは不本意だが仕方ないか、あいつらの我輩のみる目が物語っている……。


「あ~え~と……知らなかったとはいえ……軽率だった、すまん」


「あ……いえ……気にしていませんです……では……こちらに」


「あ、はい……」


 ……なんなんだよ! 我輩、謝ったではないか! なのに何で重たい空気が漂ってるんだ!?


「「「「……」」」」


 この沈黙の中は辛い……辛すぎる……知らなかったんだからしょうがないだろ!?


「あの……申し訳ないのですが……まともに寝られるとしたら、この藁を置いている部屋しか……ないんですけど……」


 本当に藁を置いただけの部屋だ。

 だが贅沢は言ってられんよな……いや、言える状況ではない。


「いや、我輩たちは泊めてもらっている身だから気にしないでくれ。寝床だけでもありがたい、なぁみんな!?」


「え? あ~そうですね!」


「あ、うん! アタシ藁のベッド大好き~!」


「う、うむ。十分立派じゃないかのぉ」


 こいつら話題をふられると思っていなかったな……焦っておる、ざまぁみろ。


「そうですか……あの私、食事の準備をしてきますので……何かあれば呼んで下さいです」


「あ、ああ。すまないな」


 行ってしまった。

 食事か、ヘビとかカエルとか出て来たりは……ん?


「「「じ~~~」」」


 こいつ等、まだそんな目で我輩を!!


「貴様等! そんな目で我輩を見るな、どうしたらよかったのだ!? そもそも何かしらのフォローくらいいれろよ!!」


「デール殿が言ったからには自分で何とかしてくださいよ」


「そうじゃそうじゃ」


「そう~そう~」


 こ~い~つ~ら~!!


「だから不本意だが謝ったではないか、それじゃダメなのか!?」


「謝るにしてもってあの状況で不本意!? 何いってるんですか!? フェリシア殿の気持ちを考えてくださいよ!!」


 だから人間の気持ちなぞ我輩に分かるわけがないって、と言えればどんなに楽だったか。


「いやしかしだな――」


「ね~ね~そんな馬鹿な奴ほっといてさ、思った事があるんだけど」


 空気も話もどこかに投げ飛ばされた、この精霊は本当に自由すぎる……。

 って馬鹿な奴って我輩か!? 我輩の事なのか!?


「……それもそうじゃな。ベルトラこの話はここまでにしておこう」


「はぁ……分かりました。で、エリン思った事というのは?」


 何か我輩だけ悪者みたいになっているような……。

 なんだろう、この釈然としないこの気持ちは。


「えとね、フェリが一人でここで住んでるって事はフェリが魔女なのかな?」


 ああ、その事か。


「……一人という事ならそうなのかもしれぬ――」


「魔女ですって!?」


「なんじゃそれは!? わしは聞いてないぞ!?」


 そうだった、二人にはこの話していなかった。

 説明は面倒くさいが……仕方ないか。



「なるほど、門番達がそんな事を」


「たしかにローブを深々とかぶっていて怪しくはありましたが、魔女ですか……」


「家の中に入れてもらえたのは何かの罠かな?」


「それだと最初は拒んでいたのは不可解だ、罠ならば最初から中に入れるだろう?」


「それもそうか~」


「「「「う~ん……」」」」


 情報がなさすぎてさっぱりわからんな。


「あの……食事のが出来ましたです」


「「「「っ!?」」」」


 いつの間に! こっちに来ている事に気がつかなかったぞ!?


「わっわざわざ、呼びに来てくれるなんてすまぬな」


 さすが爺さん、とっさの反応。

 情けない話……我輩、今だに口から心臓が出そうなんだが。


「いえ……あの、その方はどうかなされました?」


 その方はどうかなされました? 何の事を言って……っな!? エリンの奴、藁の中に頭だけ突っ込んで震えておるし!! さすがに動揺しすぎだぞ!


「え~と、これは~その~……そう! こいつの種族には他人に涙を見せてはいけないというしきたりがあってな! 泊まる所にメシまでもって嬉し泣きを隠す為に顔を突っ込んでいるのだ! 気にせんでくれ!」


 何という苦し紛れ、自分で言っといてなんだが、こんな話を誰が信じるだろうか。


「そんな、そこまでのことじゃ……では落ち着かれましたら……来てくださいです」


 え? 信じた? 特に変わった感じはしなかったが。

 あれを信じるとか変わった奴だ。


「デール殿……さっきの話は聞かれてはいない……みたいですかね?」


「……だといいがな。ほれエリン頭を抜け、もう行ったぞ」


「もがもが……ぷはっ!」


 ただこいつの地獄耳の事もある、なんとも言えないよな。


「ね~ね~デール」


「ん? なんだ?」


「精霊にそんな変なしきたりってあるの?」


 我輩はお前の方が馬鹿と思うんだが。


「……あの場を誤魔化す為に言った嘘に決まっているだろ。そもそも、自分の事なんだからしきたりとか我輩に聞いてどうするんだ」


「だよね~おかしいと思ったんだよ」


 まったくこいつは……。


「はぁ~……一応、警戒はしていこう」


「ですね」

「じゃな」

「わかった~」



「やったぁあああ!! ゴハン! ゴハン!」


「これはおいしそうですね!」


「おお! うまそうな飯じゃ!」


「これは!!」


 目の前にはこの一週間では味わえなかったまともな飯が!! これが幸せという奴か!?

 っていかんいかん! いきなり警戒を解いてどうする! 危なく目の前のご馳走で我を見失いかけたぞ……どういやら皆も我に返ったようだ。


「ん~!! おいひぃぃぃぃぃ!!」


 ――このアホ精霊を除いて……。


「モグモグ! みんなも食べなよ! ムグムグ! とってもおいしいよ!」


 ……どうやら食事に異常はなさそうだな。

 よし! 安心して食べれる事はわかったからいただくとしよう!


「ではでは……はむっ、おお! うまい!」

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