第5話 『こんなもの能力というより呪いではないか!』
逃げられないまま儀式が終わり、その流れで非常にちっぽけな宴が開かれたのだが……強制的に我輩も参加させられた。
精霊はというとテーブルに並ばれた食べ物に釘付け状態、あちこちのテーブルに飛んではそこにある物を片っ端から口に放り込んでやがる。ふん、よく人間ごときの食べ物をうまそうに食え――。
――ぐぅぅぅぅ
――腹の虫が……そういえばこの体になってから一口も食べ物を食べてなかったな、不本意ではあるが腹が減ってはなんとやら少しは腹に入れとくか……なっ!? こ、これはうまい、なんだこれはこんなうまいもの魔界では食えなかったぞ!!
「こら! 精霊! その肉は我輩のだぞ!」
「あああああああ!! 最後の1個だったのに!!」
我輩と精霊との食べ物戦争が始まる、が勝てる気がしない。
※
腹も膨れた頃にちょうど宴も終わり客室に案内されたが、なんだこの部屋はえらく狭いではないか、もっと大きな部屋はなかったのか?
あのうるさい精霊は宴の終わる前に腹をパンパンにさせ運動がてら城の探索に飛んでいってしまったし、何はもあれやっと一人になれた……疲れた。
「どっこいしょ……はぁ……どうしてこうなったのだ……」
今日起きた出来事をどう間違っていたのか考えるが答えが思いつかん。
今頃魔王城ではどうなっているのか。待てよ今ここには我輩一人、ということはさっさと結界の外に出てアルフレドかアナネットに連絡をとればいいではないか!
「よし、ではさっそく――ん?」
何だ、扉前の空間に歪が起き始めたぞ? ……あの歪み、あれはもしやゲートなのではないだろうか!?
だとしたら、もしかしてアルフレドかアナネットが助けに来てくれたのか。さすが我輩直属の――。
「たっだいまー! デールこの城すっごいよ! ものすごく広いよ!」
出て来たのは満面の笑みをした精霊、お前かよ。
つか城が広かっただと? 笑わせてくれる。我輩の城の方がもっとでかいのだからな!
「ゴハンもおいしかったし、探索も楽しかった~デールも来ればよかったのに~」
我輩の頭の上をうろちょろと虫かお前は、はぁ……ゲートが出て来て喜んだ我輩がアホみたいじゃないか……待てよ、ゲートだと?
「おい、我輩がこの部屋にいるのが当たり前のように戻ってきたよな? この部屋に案内された時はお前はいなかったではないか、部屋もたくさんあるにもかかわらず何故だ?」
ゲートは自分の場所と自分の分かっている特定の場所を繋げる移動魔法、我輩がマレリスにこれたのも事前にアナネットの遠見魔法で見ていたからだ、なのにこいつはすぐにでて来たおかしい。
「ほへ? 何故も何もアブソーヘイズがここにあるからだよ?」
こいつ! 「当たり前の事なのに言ってんの?」といった顔で首をかしげてやがる……ちょっと待てアブソーヘイズがここにあるからだと?
「貴様はこの剣があればどこでもわかるというのか!?」
「アタシはアブソーヘイズから生まれた精霊だよ? アブソーヘイズと繋がっているから、そこにゲートを開くことなんて簡単だよ~。――ふあ~ちょっと疲れちゃった、一眠りするから何かあったら起こしてね……ク~カ~」
「……」
それはつまりこの剣を持っている限りどこにいようとこのクソ精霊がゲートでこれるという事か!? てことはそこが魔界でも意味がない……。
「くそ! このまま城に出て魔界に戻ってもこいつがついて回るという事ではないか!! ……何かこいつが来ない方法はないものか……あ」
って我輩はバカか、今こいつは寝てるし剣などここにおいて我輩だけ出ればいいだけじゃないか。
「そ~っと……そ~っと――ぐへっ!?」
何だ、何かで顔をぶつけてしまったぞ!? ――え、ここに見えない壁が存在している!? さっき入ってきた時なにもなかったぞ!
「な、なんだこれは!? この先から進めないぞ!! ぐぬぬぬぬ!!」
駄目だ、押してもビクともしない。
「む~~~うるさいな~寝れないじゃん! どうしたの? デール? って言うか何してるの?」
我輩が叫びすぎて起きたのか目をこすりながら精霊がこっちにきた。
「ここに見えない壁みたいなものがあってすすめないのだ!」
両手を突き出して見えない壁を何回も叩いて存在をアピールさせたが、精霊のやつは我輩のやり取りをそこそこに辺りを見渡しやがった、そして椅子に立て掛けてあるアブソーヘイズを見て何か一人で納得してる。
我輩置いてけぼりなのだが……。
「それはそうだよ、アブソーヘイズがそこに置きっぱなしだもん」
「は!? どういうことなのだ!?」
く、飛びつきかかろうとしている我輩を警戒して精霊は少し高めに飛んで逃げやがった……。
精霊は人差し指を立て説明を続けてきた。
「アブソーヘイズとデールは繋がってるんだよ、だから一定距離から離れられないの」
「繋がっている!? 離れられない!? この剣を常に身につけてないとこの部屋もまともに動き回れんのか!?」
剣との距離は約1mくらい……、これではこの客室よりもっと小さい部屋につめこめられたようなものじゃないか。
「まぁそうなるねぇ~」
こいつの笑顔が腹が立つ。
「おかしいだろ! なんで我輩が剣にあわせないといけないのだ!? 普通は剣が我輩に合わせるものじゃないのか!? こう、剣よ来いと念じれば剣が飛んでくる的なものじゃないのか! 仮に良しとしてもこの範囲は狭すぎるではないか!」
ってこのクソ精霊の奴、我輩の言葉を無視して指を両耳でふさいでやがる!
「うるさいな~アタシは耳がいいからそんなに大声出さないでよ! アブソーヘイズの能力の一つなんだからしょうがないじゃん!」
能力だと、こんな制限のかけられた物が能力であってたまるか!
「こんなもの能力というより呪いではないか! 何とかできんのか!? 貴様はこの剣から生まれただろ!」
「そんなの無理だよ、言うとおりアタシはアブソーヘイズから生まれたけどサポートメインだからアブソーヘイズの本体の能力をどうこうできないもん」
「だとすれば貴様は役立たずにもほどがあるぞ!!」
「なっ!?」
あ、精霊が顔を真っ赤にして涙目になった。
「役立たずじゃないもん!! デールうるさい! さっさと寝なさい! スリープ!」
「ちょっとまっ……ふにゃ」
これは睡眠魔法、しまった睡魔がおそってきた……クソ精霊め……我輩を放置して……自分だけベッドに入りやがった……。
「デールのバカ! アホ! ……まぬ……け……ク~カ~」
それは……こっちの台詞……だ……クソ精霊……ク~カ~。
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