第4話 『我輩はデール』

「エリン……だと……」


 この独特の魔力……こやつ精霊なのか?

 辺りは静まり返っている、それはそうだ我輩ですら今の現状を把握ししきれてないのだからな。


「そうだよ~お~すごいね~人がこんなにたくさん! やっほー!」


 空気が読めないのかこやつは、こんな状態で観客向かって手なんかを振ってやがる。


「王様! あの者が剣を!!」


「うむ、天使の剣が抜けたという事は間違いないな」


 ライリー共は何を言ってるんだ? 剣が抜けたとか言っているが――え!? 我輩いつの間にか剣を握り締めておる!? いやそれよりも何故この剣が抜けてしまったのだ、目的は抜くのではなく破壊だったのに。

 しかしこの状況はまずいのでは……ああ、やっぱりライリーの奴がこっちに来てしまった。


「……お主の名は?」


「はい?」


 いきなり何を言っておるのだ。


「おい、貴様! 王のお言葉に答えぬか! 無礼であろう!」


 デーヴァンの奴が鬼の形相で怒鳴ってきた、そんな大声で怒鳴らなくても……。


「まぁまて、こんな状況だ……この者も混乱しておるのであろう。――お主の名前はと聞いている」


「あ、我輩はデ……」


 言いかけてふと我に返る。名乗ったとこで体は人間、何よりも誇り高き魔王であるこの我輩がこんな姿でデイルワッツと名乗るのはプライドが許さない。


「デ?」


「デ……デ~……デイ……ル、デール……? そう! 我輩はデール、デールだ!」


 この瞬間デールという名の人間が生まれてしまった。


「ふむ、デールか」


「お~アタシのマスターはデールって言うのか!」


 先ほどまで観客に手を振っていた精霊がいつの間にかこっちに来て我輩とライリーの話の間に割り込んできた、ライリーも精霊が気になるのかそっちを向いた。何とか名前は誤魔化せたようだ。


「してお主のほうは一体……」


「アタシ? あれ? エリンって言ったよね?」


 精霊は不思議そうな顔で首を傾けた、何故そこで不思議そうな顔をする。名前ではなく自分自身が何者かを聞かれたのがこやつにはわからんのか? それに貴様の存在の事は我輩も聞きたい。


「いや……そうではなくてだな、天使の剣から出現しその背中の羽みたいなものがあるということは、やはりお主は人間ではなく……」


「ああ、なるほどなるほど! ――え~コホン」


 ポンと手を打った後に小さく咳払いか、なんて典型的な動きなんだ。


「アタシは天使の剣【アブソーヘイズ】に宿る精霊エリン。この天使の剣【アブソーヘイズ】は、はるか昔に悪魔達が人間界に侵略してきた時の為にと天使様達が創造した悪魔を討つ為の剣です」


 なんてはた迷惑な物を作り出すかね、天使様達は……。


「このアブソーヘイズには魔力を吸収する能力を持っています。人間の中で相当な魔力がある者が触れた時にそれを吸収し、その魔力を媒体にアタシが具現化されるのです」


 なるほど、この人間の魔力と我輩の魔力とで相当な量になっていたからな。それで魔力を吸われてしまってこの精霊がでて来たと……あれ? もしかして我輩とんでもない事をしてしまったのでは……?


「そして、その人間をマスターとし魔族を倒す。それが天使様から受けたアタシの使命になります。というわけで選ばれし者デール! アタシと一緒に魔族の討伐だよ!」


 ビシっと我輩に指を指して来た、やはりとんでもな事をしてしまったらしい。

 これは非常にまずい、まずすぎる! 何とかせねば!


「いやいやいや! 我輩には無理だ!」


 そう我輩は魔族でしかも魔王、むしろ討伐されてしまう側。同胞を討伐とかしゃれにならんぞ!


「無理だって? 大丈夫! アタシがデールのサポートをするから、そもそもアブソーヘイズが抜けてアタシが実体化したんだからその力に問題ないよ」


 精霊は笑顔で我輩の手を握ってきた、いや問題しかないんだが。


「こ、これは何かの間違いで抜けてしまったのだ! 断じて我輩の力などではない!」


 慌てて剣を捨てその場を離れようとするが、振り向いた瞬間に鍛え抜かれた胸板が見える。前後左右に兵士達とデーヴァンに行く手を阻まれてしまった。


「どこに行くつもりですかな? デール殿?」


「え……え~と……その……」


 屈強な兵士達とデーヴァンに囲まれ、そこにライリーとエリンまでもが加わりこれではもう逃げるに逃げれない。


「デール、色々あってお主も疲れたであろう、今日はここまでにし明日詳しく話すとしよう。ささやかだが宴を行うとしよう、今夜は城に泊まっていくがよい――すぐに準備を」


「はっ!」


 ライリーの目がマジだ、このまま逃げたら殺されるかもしれない。

 ここはおとなしく従うしかないのかないようだ……。


「……はい……」


 この日デールという名の勇者も生まれてしまったのだ。

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