第15話 放さない。
ディール。家名は不明。孤児だという。
白銀髪はオールバックに決めていて、銀の縁眼鏡をかけている。
明るくてお調子者のムードメーカー。
そんなディールが、落ち込むイベントが起きる。
そこがフレッガッドの街外れにある洞窟の中。
ディールは、洞窟ではぐれてしまうのだ。そのまま一日中ディールの捜索をして、やっと見付けた頃には封印が壊されている。
ディールは自分のせいだと思い詰めてしまい、明るかった彼が沈んでしまうのだ。励ましても、笑顔は戻らず、そのまま次の街に向かう。
ゲームをやっている時、嫌な空気だと身悶えたものだ。
今まで楽しかったのに、一気に台無しになる。ダークを恨んだものだ。
今だって許さんダーク! って感じだけれどね。
封印が弱まるまで、あと五日。また狩りをする予定。
生活をするには働かなくちゃ。
「もふもふだよーヨル、ディール」
「おお、いいな」
「あはは、人懐っこいなぁ」
猫の多いフレッガッドの街も、堪能した。人に懐いた猫をもふもふ。
ヨールも楽しそうにもふもしたのだ。
「この街いいな。ハナを連れてきたい」
そう零したので、驚く。ヨールがハナの名前を出すことが意外だった。
あまり進んで話さないからだ。
「婚約者なんだってね」
私はせっかくだから話を聞き出してみた。
「あー、まぁな」
「照れてるー」
「茶化さないの、ディール」
「ごめん」
指差すディールを叱り、私は照れて頭を掻いているヨールに問う。
「いつからの付き合い?」
「あー……出会いは、十歳になる前だけど、それから手紙のやりとりしかしてない」
知っている。それでも想い合っているのだ。
私はずんぐりむっくりのオレンジ色の猫の腹を撫でてやりながら続けた。
「結婚するってことは、想い合っているんでしょう?」
「……もういいだろ、この話は」
見てみれば、ヨールは顔を赤くしてそっぽを向いている。
純粋で可愛い。そこがまた好きで堪らないのだ。
全く、とことんゾッコンだな。私ったら。
「双方、両想いの純粋な結婚でーす。王子は誰とでも結婚出来ていいなー」
ディールは、ポツリと独り言を漏らす。
「誰もがそうでしょ?」
「いや王子は好きな人を選べるってこと。例えば晩餐会で一度会っただけの美女と結婚したいと思えば、ほぼ相手は拒まないんだからさ」
「ディールってば、両想いでもないのに結婚を無理強いしたいのー?」
「いやそういうわけでもないけれどさー。王子と結婚したくない人なんて少ないでしょ」
「じゃあディールはどんな人がタイプ?」
「んー、先ずは優しくてぇ、料理が出来てぇ、あとちょっとセクシーな人かな」
私とヨールはそれを聞いて、クスリと笑う。
「え? なんで二人して笑うかな!?」
「いや、見つかるといいね」
「オレには無理だと思ってるでしょ!? そうだよね、こんな眼鏡かけてちゃモテないよね」
「眼鏡は関係ないと思うぞ」
「それどういう意味!?」
ディールが、一人怒り出す。
まぁまぁっと宥める。ああ、猫達が逃げちゃった。
「眼鏡が好きな人もいるよ。ただディールみたいに明るい人が好きっていう人もいるって」
「アリス! 優しい! ヨルとは大違い!!」
「なんだよ」
ヨールは納得いかないといった様子で、腰に手を置いた。
「アリスは? 眼鏡かけた人は好き?」
明るくディールが笑いかける。
「私は……」
黒縁眼鏡をかけたヨールを想像した。
「……好きかなぁ」
いいと思う。
「ふーん、そっかー」
ディールは、にまけた。
なんだその笑みは。
「猫とじゃれていないで、武器屋に入ってください」
「はーい」
「今行くよ」
クロさんに呼ばれて、私達は武器屋に入っていく。
武器の新調をする。どの街の武器屋よりも広くて、取り揃えもいい。私は拳銃の方を見ていたのだけれど、ツンツンと肩をつつかれた。クロさんだ。
「ナイフも装備してみませんか?」
「ナイフか……」
接近戦も挑戦していくスタイルでいくから、私は考えた。
うん。買ってみよう。
髪が羽ばたくくらい大きく頷けば、クロさんは微笑んだ。
握りやすいナイフを購入。それと自動式拳銃、オートマチックピストル。
ヨール達も、それぞれ新しい武器を購入した。
ヨールとノウスさんは、別の剣。
ディールは拳銃。クロさんは何も買わなかった。
リボルバーを買った時のように、黄ばんだ紙を渡される。今なら読めた。召喚の契約書だ。私は迷いなく最後の欄に、アリスと署名。
「複数の武器を所持する時は、その形状をしっかり記憶することがコツです。リボルバーを召喚したければ、リボルバーをイメージ。ナイフを召喚したい時は、ナイフをイメージ。重要なのは」
「名前だね」
「そうです」
受け取ったナイフを、手の上に乗せて、アリスと心の中で唱えた。
七色の光が飲み込んで、消し去る。
それから、リボルバーをイメージして唱えた。リボルバーが出現。
一度消し去ってから、自動式拳銃をイメージして唱えた。自動式拳銃が出現。
一度消し去ってから、ナイフをイメージして唱えた。ナイフが出現。
ゲームならボタン1つで変えられた武器召喚。戦闘中に慣れたい。
試しにナイフからリボルバーにチェンジしようとしたけれど、七色の光が散って何もなくなった。
ふむ。一度消してからじゃないと、別の武器を召喚出来ないのか。
アリス、アリス、アリス。と唱えて瞬時に武器の召喚をしては消え去りチェンジをする。
「早業ですね」
クロさんが、感心してくれた。
「新しい武器に慣れたい。早く狩りに行こうぜ」
ノウスさんは好戦的な笑みを浮かべて、催促する。
私も、ヨールもディールも同じだ。
フレッガッドの街のギルドに行って、依頼を受ける。
魔獣だけではなく、モンスターの退治の依頼もあった。
洞窟から出てくるモンスター、ゴブリンやインプなどの小さなもの。でも厄介らしい。街に来ては畑を荒らしては、盗みを働くそうだ。時には幼い子どもを攫って食うとも。おっかない。
四日間は、また新しい武器に慣れるためにも、狩りをした。
接近戦と一対一にも、慣らしてもらう。戦闘中の武器チェンジも、コツを掴めた。
自動式拳銃は、弾倉を一度銃身から取り出して、魔力を込めて握れば、たくさんの弾丸を弾倉に詰め込められる。六発よりも多く撃てる利点もあっていい。問題点は、手入れ。仕組みをディールから教わって、頑張った。
そして、封印が弱まる前日。洞窟の中に入ることにした。
懐中電灯を装備。手が塞がらないように、首からぶら下げるタイプのもの。雑貨店で見付けた時は、便利だと喜んだものだ。
そうそう、雑貨店と言えば日記も買わせてもらった。皆と過ごす日々の楽しさや、私の決意を日本語で書き綴った。
「……怖い」
洞窟を目の前にして、思ったことを口にしてしまう。
大口を開けた洞窟の中は、黒一色だった。
ゴブリンやインプがいるのでしょう? 余計怖い。
「入らなきゃだめ? だめだよね。うん。行こう」
「アリスがテンパってるー」
ゲームしていても、ビビったものだ。リアルなら絶対に入らないと思ったくらいなのに、こうして入ることになろうとは。
怖いわ。ビクビク。
ケタケタと笑うディールを見る。
君はこれからはぐれるんだけど?
じとっ、と眼差しを送ると、ディールは「怒った?」と首を傾げた。
「ディール。手を繋いでよ」
「え? オレと? そんなに怖いなら、アリスここに残ったら?」
意外! と言いたげなほど驚いて、ディールが提案する。
「だめですよ。もしもあのダークという男と鉢合わせしたらどうするのですか」
ダークと鉢合わせしたくはない。
でもやる時はやってやる。ここでダークを足留めしてやる。
けれども、やっぱり置いていかれたくない。
「一緒に行く。手を繋いで、ディール。お願い」
「んー。わかった」
ディールは悩んだ素振りを見せてから、笑顔で手を差し出した。
グローブを嵌めたその左手を握る。
ふと、ヨールと目が合った。けれど、逸らされた。
「そんじゃ、行くか」
そう言って、踏み出す。
フレッガッドの街外れの洞窟に、いざ潜入。
暗い洞窟を五つのライトが照らす。それほど入り組んではいない。でも迷うと言えば、迷ってしまうダンジョンだ。
絶対にはぐれてしまわないように、私はディールの手を握り締めた。
目は前方を歩くヨール達をしっかりと見る。
茶色い壁。ちょこちょこ穴が空いているが、それはゴブリンが移動に使う通路ってところだろう。
「あれー? 今物音がした」
「気のせいだよ、ディール」
「いや絶対そうだよ。ちょっと見てみよう、アリス」
「絶対だめ! 進む!」
断じて怖いから見たくないわけではない。
ディールがはぐれてしまうフラグをへし折るためだ。
「アリスー。二人で見れば怖くないって」
「だめなの! 進む!」
グイッと繋いでいる手を引っ張る。
ディールに落ち込んでほしくないし、それに4つ目の封印も壊されたくないのだ。何が何でも引きずって進ませてやる。
「……ねーさー、アリス」
ディールは声を潜めて、耳打ちしてきた。
「ヨルのこと、好きなんじゃないの?」
ギクリとして、ディールの顔を見る。近過ぎて、身を引いた。
すぐに視線をヨールに向ける。はぐれないためと、ヨールに聞かれていないことを確認するため。大丈夫そうだ。
「ヨルと手を繋げばよかったんじゃない?」
「む、無理!」
ディールのフラグの件がなくても、ヨールに手を繋いでと頼むのは無理だ。声を抑えて叫ぶ。
一度、手を繋いだけれど、思い出すだけでも顔が熱くなる。
あれは気持ちを自覚する前だから平然だったけれども、今は無理だ。隠し切れないし、心臓が爆発してしまう。
「ヨルに言わないで」
「言い触らしたりしないよ、心外だなー」
「なんで……バレたの?」
「ヨルに向ける笑みがちょっぴり優しかったからー、勘だよ」
私はディールをチラチラ見ながら、天井を仰ぎたかった。
ヨール達の背中は、見失わない。
「これじゃノウスさんも気付いてるパターンだ……」
空いている右手で額を押さえる。
恋愛経験豊富なノウスさんには、とっくにバレてしまっているに違いない。知らぬは当の本人だけか。
ああ、と嘆きたい。
「好きになっちゃったらしょうがない。で? いつ告白するの?」
「しないよ!」
何を言ってるんだ。このお調子者め。
「でも、このまま告白するチャンスを逃しちゃうわけ? 本当にそれでいいの?」
「……いいの」
ヨールは結婚を控えている。その前に、という意味だろう。
当たって砕けるつもりはない。
吐き出して、しまうつもりもない。
「よく言うでしょ。好きな人が幸せならそれでいいって」
「……ふーん。そっか……アリスがそう言うなら、そうだね。でもさ」
ディールは言った。
「言わなかった後悔の方が大きいとも、よく言うでしょう?」
私を迷わすようなことを言ってくれる。全く。
何も言えなくなってしまい、ただ息を吐いた。
すると敵が現れる。ゴブリンの集団だ。
私はディールの手を放したけれど、絶対に目を放さなかった。
ゴブリンを撃ち抜くより、地面を撃って火傷を負わせることの方がいいと判断する。火がついて慌てふためくゴブリンを、ヨール達は仕留めていく。ディールも次から次へと仕留めていった。
しんっと静まり返って、辺りを見回す。もう出てこないみたいだ。
私はもう一度、ディールと手を繋ぐ。
「実はヨルに見せ付けたいだけ?」
「ち・が・う!」
「おい、そこの二人。先進むぞ」
ディールの茶化しに真っ向から否定する。
すると、奥に進む道を見付けたヨールに急かされた。
ヨールがこれを見て何か思うわけないじゃないか。
ちょっと考えたら、落胆してしまった。
別にいいの。そう思うことにした。
「……もしもね、ディール。ここではぐれて、迷惑かけたら責任を感じるでしょう?」
「うん? はぐれて、捜してもらっているうちに封印壊されたら、そりゃ責任感じちゃうね!」
冗談じゃないのに、ディールが明るく笑う。
君はそうなる可能性があるのだ。
私がそれを阻止するために手を繋いでいる。
言ってもわからないだろうけれど、感謝してほしい。
「ディールはそのままでいてね」
「え? 何それ、どういう意味?」
「そのまんま」
明るく笑っていてほしい。
「ゴブリンが出た!」
またゴブリンの集団が四方八方から襲撃してきたので、迎え撃つ。
ディールと背を合わせて、飛んできたゴブリンを蹴り飛ばし、撃ち抜く。
ノウスさんは薙ぎ払う。宙に浮くゴブリンを、ディールと競い合うように撃った。クロさんもナイフを投げて仕留める。よし、終了。
確かゲームではもう一回襲撃を受けた気がする。
「アリス、物音がした気が」
「しない!」
それはインプ。無視して、どんどんと道を下(くだ)っていく。
そう言えばゲームだと“出口に戻る”っていう選択があって、瞬時に戻ることが出来たっけ。それこそ便利だ。
目印はつけている。発光する棒、ケミカルライトを落としていた。出る時は、自動脱出は諦めよう。
三回目のゴブリン襲撃を受ける。数は多いが、強敵ってほどじゃない。でも的が小さいから、当てるのは腕の見せどころだ。炎の弾丸で仕留めていく。ヨールも炎ごとゴブリンを切り裂いた。
「はぁ……」
安堵をする。三回目の襲撃を受けても、ディールははぐれていない。
両腕を天井に上げて、万歳。
「アリス。疲れたのか? それとも喜んでるのか?」
ヨールが呆れたように笑って問う。
ディールのはぐれて沈むフラグをとりあえず回避出来た。
初のフラグへし折りに、達成感を覚えている。
よっしゃあ! 次のフラグも折ってやる!
「喜んでるの! 大丈夫! 疲れてない!」
私はディールの背中をバンバンと叩いて、胸を張って見せる。
「痛いよアリス」と苦情がきた。ごめん。
「もうそろそろ封印地につくでしょう」
クロさんの言う通りだ。
「土の魔法石を貸して」
私は土の弾丸を込めて、準備を整える。
これから、ボスゴブリンと召喚魔が二体。大変な戦闘だ。
けれども、ヨールのフラグをへし折ることに闘志を燃やしている。
今度こそ。今度こそ。今度こそ、守り抜く。
開けた場所に出た。天井には穴が空いていて、陽射しが差し込む。そこに封印の黒い石がある。うっすらと金色のベールが光って見えた。結界は健在のようだ。
そこにどっぷり太った大きなゴブリンがいた。
それから、召喚魔が二体出されるのだ。
「行くぞ!」
「おう!」
「うん!」
ヨール達が飛び出していく。私だけは、周囲を見た。
ボスゴブリンに攻撃を仕掛けると、影が伸びてきて、黒い巨人が二体這い出る。その影が伸びた先に、ダークがいた。
私はダークに向かって駆けながら、巨人達の足を弾丸で砕く。
そして、ダークの腕を掴み、銃口を喉に突き付けた。
「捕まえた!」
戦闘している音を背にして、ニッと笑う。
「……捕まっちゃった」
「放さない!」
ダークも余裕綽々の笑みを浮かべているけれど、私は妙な真似をすれば撃つ覚悟は出来ている。
さぁ、どうする。大ボス。
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