故郷

 ここに来るのは、久しぶりだ。

 私は電車から降りて、ほっと息を吐く。

 何十年前に出て行ったきり、一度も帰ってこなかった場所。

 子供の頃の思い出が頭によぎりそうになったけど、慌てて消した。

 一生来るつもりが無かったのに、また来てしまったのはどうしようもない理由だった。

「おいおい、待ってくれよ」

 私は肩を抱かれて、引き寄せられた。

 それを振り払おうとしたけど、力が凄まじくてできなかった。

 この人のせいで、私はここに来なければならなくなった。


 喉の奥から気持ち悪さがこみあげて来たけど、必死に飲み込む。

 そんな私を、子供の頃の私が笑いながら見ている気がした。


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