留守番


 今日は、一人で留守番をする。

 急な親戚の不幸で、両親が手伝いをしに行ってしまうからだ。

 最初は俺を連れていこうとしていたみたいだけど、俺の方が断った。

 知らない人だらけのところでつまらない思いをするよりは、誰もいない家で好きなことをする方がいい。


 そう考えて、両親に留守番をする提案をした。

 駄目そうな雰囲気を最初は醸し出していたけど、俺を連れて行って面倒を見てくれる人がいないと思ったのか、結局は許可をしてくれた。

 だから今日の夜は、初めて一人で過ごすことになったのだ。


 一人で怖いのもあるけど、ゲームや漫画を読んでいれば気にならないはず。

 お菓子やジュースを飲んで、過ごせるなんてなんて素晴らしいのだろうか。

 一人という恐怖よりも、どちらかと言うと楽しみの方が俺の中では大きくなっていた。





 そして学校が終わり、すでに誰もいない家へと帰ってきた俺は、真っ先にゲームの電源をつけお菓子の袋を開けた。


 いつもだったら良い所で邪魔が入ったりするけど、今日はそんな心配はない。

 満足するまで進めると、段々と飽きてきたから漫画を取り出す。

 こんなことばっかりしていたら、宿題をやりなさいと怒られるはず。

 しかし誰も見ていないから、バレることも無い。

 漫画も最新巻まで読み終わり、開けたお菓子も空になってしまった。


 ここまで来ると、何だかやることがなくなってしまう。

 俺は大きくあくびをして、テレビのチャンネルを変えた。

 時間が微妙だからか、面白そうなのがやっていない。

 色々と変えてみたのだけど、いいのは無さそうだ。


 そう思って変えた、今まで見たことも無いチャンネル。

 なんとも珍しいことに、季節外れのホラー番組をやっていた。

 ホラーは嫌いな方じゃないから、俺はそのままつけてみる。


『知っている人は知っている、こわーい噂』


 番組の内容は、都市伝説を再現した映像を流すというものみたいだ。

 演技が棒読みな感じがあったけど、中身は結構面白い。


 だから俺は、いつしか退屈な気持ちが吹っ飛んで、テレビに夢中になっていた。



『それでは最後の噂……』


 しかし途中から見たせいで、もう最後の話になってしまった。

 残念な気持ちになりながらも、次はどんな話なのかとワクワクする。


『その男の子は、両親の急な用事のせいで、家で一人留守番をしていた』


 ワクワクしていたのだが、始まった話のシチュエーションが今の俺と似通っていて、微妙な気持ちになった。


『男の子はうるさく言う親がいない状況に、最初は好き勝手して楽しんでいた。しかしそんな時間は、唐突に終わりを告げる』


 テレビの中の男の子が、まるで自分に見えてくる。

 そんなわけがないのに、背筋に寒気が走った。


『夜の遅い時間だというのに、鳴り響くインターホン。無視をしていても、それは何度も何度も鳴り続ける』



 ピーンポーン


「ひいっ!」


 テレビ画面に釘付けになっていたせいで、突然のインターホンの音に過剰に反応してしまう。

 しかし、あまりにもタイミングが良すぎる。

 俺は顔を引きつらせながら、無視をした。


 ピーンポーン


 ピーンポーン


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン


 居留守を使っているのがバレたのか、インターホンが鳴り止まない。

 俺は更に恐怖を感じながら、テレビ番組をみ続けた。


 男の子は何故か、玄関の扉を開けようとしている。

 ホラーにおいて、そういう行動は絶対に良くない。

 俺は男の子の馬鹿な行動が、一体どんな結末を招くのか、固唾を呑んで見守ろうとした。



「広成! 開けて!」


 しかし玄関の方から聞こえてきた母親の声に、ハッとする。

 何だ。

 幽霊とか不審者じゃなかったのか。

 俺は恐怖に怯えていたことが馬鹿らしくなって、テレビは名残惜しかったけど玄関に向かう。


 そして鍵を開ければ、疲れた顔の母親が中へと入ってきた。


「もう、何度も鳴らしたのに。どうしてすぐに出てくれないの!」


「ごめんごめん」


 すぐに出なかったことに怒っているから、軽く謝った。

 まさか幽霊とかだと思っていたからなんて、恥ずかしいから言えない。


 俺は恥ずかしさから赤くなった顔を隠すために、母親に背を向けてリビングへと戻ろうとする。


「……あれ? そういえば、鍵もってなかったっけ? それに父さんは……」


 その途中で、ふと気になったことを聞いた。

 そういえば戻ってくるのが遅くなるから、鍵を持っていったはずなのに。

 どうして、それを使わなかったんだろう?


 ただの純粋な疑問だった。



 しかし、それに帰ってきた答えは。



「あはははははははははははははっははははははっははははははっははははっっっははっは」


 狂ったような笑い声。

 俺は嫌が応にも悟った。



 テレビ番組の男の子が、どんな結末を迎えたのかは、もう分からない。

 でも俺も、そいつと同じぐらい馬鹿なことをしてしまったみたいだ。

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