雪やこんこ

 外は静かに雪が降っている。

 私は家の中でそれを眺めながら、外に出たい気持ちを必死に抑えていた。

 親は仕事に行ってしまったせいで、家には私一人しかいない。

 だから外に出てもバレないはずなのだけど、それでも迷っていた。



 私は今まで、雪の日に外に出た事が無い。

 それは、親に止められていたからだ。


「絶対に外に出ては駄目よ。雪の日の外は、とても危ないから」


「はーい」


 私が物心ついた時から、お母さんは私にそう言ってきた。

 だからそれを守ってきて、どんな日でも雪が降ったら外に出なかった。

 そのおかげなのか分からないけど、病気も大きな怪我もした事無く過ごして来た。


 これからも、それを守り続ける予定だった。

 しかし今の私は、外に出たくなっている。

 ここまで出たいと思った事は無かったから、自分でも不思議だ。


「外、出ちゃ……駄目かなあ……?」


 私は寒さから曇ってきた窓を、指でなぞる。

 そうすれば、なぞった線が残る。


 そこに、ゆっくりと文字を書いた。


「ゆーきやこんこあられやこーんこ、ふってはふってはずんずんつーもる」


 何でそんな文字を書いたのか分からないけど、私は消さずに窓から離れる。

 そして私は、外へ出る準備を始めた。


 コートにマフラー、手袋に長靴を出す。

 カイロを体中に張り付けて、温かさはバッチリだ。

 私はたくさん着すぎて、動きづらくなった体を動かして玄関に行く。

 そして頑張って長靴を履いて、扉を開けた。


「うー、寒い! でも、凄い! 雪だー!」


 開けた瞬間、全身を刺すような寒さが襲い掛かってくる。

 最初はそれにやられそうになったけど、すぐに雪にテンションが上がった。

 私はゆっくりゆっくり、踏みしめるように雪の積もった地面を歩いていく。


 そうすればサクサクという感覚があり、私の顔は自然と頬が緩んでしまう。

 こんなにも楽しい事を、今まで経験してこなかったなんて。

 私はサクサクの感覚が楽しくて、どんどん足あとの無い所を進む。


 誰の足あとも無い所に向かって、歩く私を止める人はいない。

 いつの間にか、何も考える事も無く私は歩き続けた。





 とある家の一人娘が消えた。

 両親が仕事に行っている時に、外に出てそのままいなくなってしまったみたいだ。

 足あとをたどろうにも、その日ずっと降っていた雪のせいで無理だった。


 悲しみに暮れる両親は、窓に残された文字を見つける。

 そこに書かれている文字を読んで、悟ってしまった。

 娘が二度と戻る事は無いと。


 だから言ったのに。

 雪が降っている日は、外に出てはいけないと。

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