決まり事
ゲームは一日一時間まで。
お母さんにそう決められた俺は、友達がどんどん攻略していくのを聞いて、もやもやした気持ちになっていた。
俺だってもっと時間があれば、他のみんなよりもずっとずっと進めていられるはずなのに。
お母さんが、決まり事を作るのが悪いのだ。
しかも一つだけじゃないから、俺はさらに嫌になっている。
家には、五時までには帰ってくること。
これだって意味が分からない。
俺はもう、そんなに小さくないのに。
五時までなんて、夏だったら外は暗くない。
それなのに家に帰らなきゃならないのは、おかしいんじゃないか。
門限があるから帰るといえば、友達みんなに馬鹿にされる。
俺だって、そんなのは気にせずに遊びたい。
だけど前に破った時に、ものすごく怒られてしまった。
それはもう、今までに無い位に。
その時のことがトラウマになって、絶対に破らないようにしようと気を付けるようになった。
あと、他に嫌だと思っている決まり事。
それは、欲しいものがあったら、何に買うのかお母さんに言ってお金をもらわなくてはならない、だ。
お小遣い制じゃないから、好き勝手に色々と買えない。
たまに買いたいものによって駄目だと言われてしまうから、全部が手に入るわけでもない。
俺にとっては大事で、とてつもなく欲しいものなのに。
お金をもらえないと、どうしようもない。
お手伝いをすれば、お駄賃はもらえる。
しかしそんなの少ないし、面倒くさい。
俺は好きなものは、好きなように買いたい。
だから何度か、お小遣い制にしてと頼んでいるけど、全く聞く耳を持ってくれない。
財布から取ったら、後が怖いからやるのは止めた。
あと、お母さんに決められたことといったら……よく分からないのもあった。
外で知らない人に会ったら、絶対に話しかけない。
どんな人だとしても、絶対に駄目。
お母さんが何を心配しているのかは分からないけど、そんな変な人に話しかけるほど馬鹿じゃないのに。
そう言って笑っても、真剣な顔をしてくるから俺はそれも守っている。
だからどんなに困っていそうでも、どんなに話しかけたくなるような状況でも、絶対に話しかけていない。
たくさんの決まり事を守って、俺は今の所生活している。
別に、守らなくても良いんじゃないかというのもたくさんあるけど、お母さんが怖い。
俺はたぶん、とてつもなくいい子なんだと思う。
お父さんはお母さんとは違った怖さがあるから、あまり話さないけど家族仲も良いはずだ。
俺のおかげで、この家族は何とか持っている。
すっかり仲の悪い両親が同じ空間にいる時は、空気を変えるために面白い行動をする。
そうすれば、少し空気が和らぐ気がするのだ。
だから本当は嫌だけど、家ではわざとふざけたふりをする。
そうすればお母さんは、涙を流して俺を抱きしめてくれる。
お父さんといる時間は、それだけ苦痛らしい。
それでも離婚をしないのは、俺の為なのか。
お母さんの苦痛を考えれば、離婚を進めるべきなのかもしれない。
それを出来ない俺は、なんて弱虫なんだろうか。
自分で自分が許せないけど、無理だった。
俺の世界はこういう風に、家族を中心に回っている。
特にお母さんが中心で、他はゲームやたまに会う友達。
さみしい人生だと言われるかもしれないけど、とても満足している。
そんな風に、俺は穏やかに過ごしていた。
しかし、お母さんが突然とんでもない事を言い出してくる。
「え? ……家を出る?」
「そう。出るのよ」
俺は信じられない気持ちで、お母さんにもう一度聞いた。
返ってきた言葉は、残酷なもので。
「何で急に、そんな事を」
「急じゃないわ。前から、ずっと思っていたの。もう潮時なの……だから、これは決定事項よ」
「む、無理だよ。だって生活は?」
「なんとか出来るはず。大人なんだから」
頑なな態度は、本当に決定事項なんだと分からせた。
だから俺は、必死に考えを変えてくれるようにすがりつく。
「無理だって! ねえ! 死んじゃうよ!」
「……いい加減にしなさい」
それでも、お母さんは厳しい表情を変えなかった。
「お父さんと相談したけど、一度やってみなさい」
「あなたは、もう子供じゃないのだから」
俺は体を震わせて、その場に崩れ落ちた。
この世に生を受けてから数十年。
働くこともせずに、自由気ままに生きてきたこの生活が。
全て終わる。
その現実を叩きつけられて、絶望に打ちひしがれた。
そんな俺を慰める手がないのが、お母さんからの答えなんだろう。
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