片翼の天使

雄大な自然

片翼の天使

ある時、ある世界には双子の天使がいました


その姉弟の背中には片羽ずつの翼が生えていて、他の天使たちと一緒に空を舞う時、姉弟はお互いに支えあって飛ぶのです


姉は二人で一緒に飛ぶことが何よりの楽しみでした

弟は姉のことは好きだったけれども、自分一人では好きな時に自由に飛ぶことが出来ないことが不満でした


姉弟はまるで性格が違っていて、だけど誰よりも仲の良い双子だったのです


そんなある日、姉は地上の青年に恋をしてしまいます

日々、物憂げに溜め息をつく姉の姿に弟は怒りました

自由に飛ぶことが出来なくとも自分たちは天使、地上の人間と一緒になることなど出来ないと言うのです


それでも姉は諦め切れません。他の天使たちの間を聞いて回って、どうにかできないかと尋ねました

ですが、どの天使も首を横に振ります

誰も人間と結ばれる方法を教えてくれなかったのです


悲しみのあまり、泣き暮らす姉の姿を見かねた弟はついに姉に問いかけます

どうしても彼と添いたいのか、と

姉の答えは決まっていました

その言葉に弟は頷きます

どうするのかと問いかける姉の背中に、弟は無言で手をかけました


そして、そのまま姉の翼を引きちぎったのでした


痛い、と姉は叫びます

イタイイタイと悲鳴が耳を衝きます

だけど、弟はためらわずにその羽をもぎ取りました

あまりの辛さに姉は気を失ってしまいました


そうして倒れた姉の姿を見下ろしながら

弟はもぎ取った翼を自分の背中に取り付けます

そして、彼は自由に飛べる翼を手に入れたのでした


姉が目を覚ました時、そこは見知らぬ場所でした

そこは彼女が恋をした青年の家で

家の前に倒れていた彼女を青年は優しく迎え入れてくれたのです



それから長い長い月日が流れました

優しい青年の妻となり、母となった彼女は日々を幸せに暮らしていました

そんなある日、子供たちが見世物の一座がやってくることを伝えます

そして、家族でそれを見に行くことにしたのです


一座の見世物の目玉は羽のある人間でした

強い狩人の手によって仕留められたというその翼の人を見て

子供たちは大喜びしましたが、母は機嫌を損ねます

ひどく傷つけられた翼の人の姿はあまりにも醜くて

その翼もまるで作り物の様に見えたからです


怒って立ち去っていく姉の姿を見て、弟は心の中で微笑みます

幸せそうな姿に、心の底から喜びました


どうしてこうなってしまったんだろう

そう、弟は自分に問いかけます


答えは簡単でした

翼を持っているのに、人間に近づいたりしたからです


姉が人間と一緒になるために翼をもいだのに

自分は翼を持ったまま人間と触れ合おうとしたからでした


だから撃たれたのです

人間が自分たち以外のものをみとめないと

誰よりも知っていたはずなのに


これは罰なのだ

そう、弟は思いました


自由に飛べる翼を捨てて、地上で人間と一緒になった姉

それなのに自由に飛べる翼を持ったまま、地上に降り立とうとした弟

いつも彼は片方だけでは満足できなかったのです


まるで人間のようにあれもこれもと欲張っていたのです

だから、神様が罰をお与えになったのだと彼は考えました


見世物が終わり、人間たちが檻を片付け始めます

彼も檻の隅へと押し込められてその鳥かごに覆いをかけられました


彼は、永遠に囚われたままでした


やがて、姉から奪い取った翼はもげ落ちて

天使と人間の間のような存在になって

人間たちの見世物にされ続けるのです


どんなに言葉を尽くしても人間たちは聞き入れてくれないので

そのうちに彼は話すことを止めました


思い出すのは楽しい思い出ばかり

姉との思い出ばかり


ああ、そうか

ようやく気づいた


僕は、姉さんの様に、誰かに想われたり、想ったりしてみたかったんだ

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