きみにとっては些細なこと

@shob0o0n

折り紙の話

抽選で当たる!

見出しの下には長々とした説明文。どうやら当選すると商品券がもらえるようだ。

読み終わる前に君は下の欄を指差して

「ここね、ここ。ここに名前書いてくれればいあから」

と悪徳商法のようにサインを求める。爽やかな笑顔と黒髪にツーブロックを軽くワックスでまとめ、スーツは派手ではないもののおしゃれを楽しんでおり全身からでる清潔感から見た目は好青年であるから余計にタチが悪い。

私なら仮に君が詐欺師でもころっと騙されるだろう。いや、既に本当に騙されているだけかも知れないが。


私の貴重な休憩時間に滑るように入ってきた抽選の紙に名前を書く。同じ会社の人間とはいえ説明もろくにしないとは、今さら扱いがぞんざいなことはここでは気にしないが。それにしても別の部署とはいえ抽選に応募する人数のノルマがあるとは気の毒な話だ。

「はい、どうぞ」

いつの間にか隣に座る君に名前をかいた紙を渡すと

「はいはい、ありがとねえ」

なんとも気の抜けたお礼をしながら抽選の紙と説明文をぴりぴりと切り離し、説明文の書いた部分を返される。あ、この紙正方形ぽいな。正方形の紙を見ると折り紙始めたくなるよね。

と、対角線上に三角に折ってみる。ここでわかったのが正方形からいくらか離れていることだ。残念だったものの続けており続けてみる。いくら隣に座る君が訝しげな顔でも。そして途中で気がつく。

「先輩、どうしましょう。」

自分でも呆れるんだけど

「私ここから鶴の作り方わからない。」

えっ、て顔する君に不恰好なひし形の鶴になるはずだった紙を渡してみる。

「これはここをこうしてね。」

続きを折る君。だけどなかなか苦戦しているようで。紙が少し厚いのか折り目を何度もなぞる。力が入っているのか少し赤くなる指、その長く力強い指はとても綺麗でつい見とれてしまう。眺めていると視線に煩悩が混ざっていたのか

「ちょっと、あんまり見ないでよね。」

身じろぎする君の言葉に笑ってごまかしつつも目が離せなかった。どうやらうまく紙の端同士が合わないらしい。

「なんせ紙が正方形じゃなかったもので。」

とつい自分をフォローしてしまう。そんなにガサツだと思われるのが恥ずかしいというのを見透かしてか君は言う。

「折り紙には性格が現れるって言うからねえ。」

ちょっとどういうことですか、と2人で笑う。いたずらっ子のように、にひひ、と言って笑う君は爽やかさはどこへやら。愛嬌に溢れている。


「はい、できたよ」

渡された鶴は胴体に穴があいちゃって、それでも歪な紙から折ったとはわからないくらい綺麗に出来上がっていた。やりきった顔の君をしっかり見たかったんだけど、私の激しい人見知りが仇になってつい鶴の方を見てしまう。言葉もすごいすごい、しか出てこない。

そんなことしてるうちに君は帰っていく。


なんてことない休憩時間だったけど、夜になっても、日が変わっても思い出す。君の綺麗な手と鶴を折る時間。

君にとっては些細なことなんだけど、私にとってはキラキラと輝いていて恋しい。


叶えるつもりはないけれど、私は君がすき。


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