バレンタイン・デー3(百合子の場合)
「 前 波 サ ン !
Happy Valentine’s Day デス!!」
「お、おう…… いきなりだな――」
出会い頭に宣った百合子を招き入れて、食卓に座る。
――と、彼女は「台所をお借りシマス」と断りを入れて、アレコレと作業に勤しみ始めた。
あっという間にチョコレートの甘い香りが台所から漂ってくる。
……一体どのような調理が行われているかは、自分の席からは伺い知ることは出来なかった。
そして、数分後。
笑顔満面で、お盆―― トレーだろうか、を慎重に運び来た。
そして、おもむろにソレをオレの目の前に着陸させた。
「ハイ、ソレデハ…… めしあがれ!」
と、差し出されたトレーには、二皿―― 二品?
ラーメン用の丼鉢と、平たい大皿に飾られた、 茶 色 の “ 麺 類 ” 。
えっ、と、思わず口からこぼれる。
うん、それは、確実にチョコレートなのだ。
――なのだ、が。
「えぇと、百合子サン……?
コレハ、イッタイ――……?」
「Yes!
チ ョ コ ヌ ー ド ル で す ! 」
お っ 、 そ う だ な 。
―― え ? ?
余りの普通な返答に、つい納得しかけてしまった。
聞 い た こ と ね ぇ ぞ ! ?
いやまぁ、広い日本、探せばあるのかもしれないが! 今年の新商品とかで!
「そうか…… チョコ、なんだな……?」
「Yes,of Course!」
「じゃあ、いただくとする、か――……」
物凄い恐い物見たさな気持ちと共に、ラーメン鉢に向かう。
――なるほど、それだけでチョコレートの香りが漂ってきた。
鼻をくすぐる、甘ったるい香りだった。
意を決して、箸で掴んだそれを口にやる――……。
「……あれ、美味い。
そして、甘い」
「大成功! デースネー!」
「麺も甘いな…… どうなってるんだ、これ。
普通の中華麺じゃないのか?」
「Flour(小麦粉)ニー、マロンペーストを練りイレター、特性麺デス!」
「おぉ…… 手が込んでるな、マジで!
スープの方は、チョコレートドリンクみたいな感じだな…… もちょっと濃いけど――」
「Yes!
サスガニー、Normalなチャイニーズヌードルではー、スープと合わないかと思いマシテー?」
――なるほど。
よく考えられている。
ただ単にネタでやっているだけではないのが百合子の恐いところだ。
と、言うことは……。
「二皿目のこれは――…… チョコレート掛けの皿うどんに見えるけど……」
「どうぞ、ドウゾ。
Let’s eat、デスヨー」
「あ、あぁ……。
――……。
おぉ、こっちも普通に美味い……。
やっぱり甘くて、見た目とぜんぜん違う味だけど―― 何だコレ?」
「チュロス、デス!」
――チュロス?
……某テーマパークとかで有名なアレか?
目の前のソレは、アレとは違って焼きそばくらいの太さの物がぐるぐる巻きになった形状だが……。
「チュロスの材料ヲー、細い口金に通しテー、短い時間だけFryシマシタ」
「――なるほど。
ずいぶんと凝ってるなぁ」
「セッカクのFirst!Valentine’s Dayデスノデ!
ゼンシンゼンレイで挑みマシタ!」
「お、おう……」
悪 ふ ざ け に 全 力 だ ――……。
それでこれだけのものが出来上がるのだ。
百合子が百合子たる所以と言えるかも知れない。
「――いや、美味かったよ、さすがだな」
「ハイ、おそまつさまデシター。
満足していただけマシタカ?」
「そりゃあ、もう。
見た目で驚き、食って美味くて、作り方で納得できるならそれ以上の料理はないよ」
お世辞抜きで、正直な気持ちをそう伝える。
受けて、百合子も素直に笑んで、喜んだ。
「ありがとうゴザイマス!
何よりの言葉デスネー!」
「しかし――……」
「But...?」
「これだけの物を貰うと、お返しが心配になるな――……」
そう、オレは苦笑する。
恐縮するオレに対し、百合子はと言うと、
「ソレは、オココロのままにがんばってイタダケレバー?」
などと、やんわりとハードルを上げてくれるのみだった――……。
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