case2:万物破壊.4
リーダーとプリーストも時間を戻され、冒険者は全滅してしまった。しかも蘇生魔法も効果がない。
「おいおい、あれにどうやって勝てんだよ。どう足掻いたって無理だろうが」
勝ち目が皆無過ぎて笑うしかないアクト。あの能力を奪う奪えない言ってる場合ではなく逃げるべきなのではと思うようになった。
「グリザリード君。君もああなりたい?」
スライムは形を元の姿に戻してゆく。グリザリードの破壊能力と再生能力に優れているスライムとでは相性が悪すぎる。それに加え、魔王が持つ理不尽すぎる時間を戻す能力。転生人のグリザリードと言えど勝てる気がしない。
「ボクが能力を発動させればいつでも君を殺せる。避けようがない。でもボクはもう帰れなんて言わないよ、優しかったボクも流石に何度も体を破壊されたら怒るもの」
魔王は右手の人差し指をグリザリードに向ける。
《
原点回帰が発動する前に魔王の手が破壊された。だが再び元に戻る。
「はぁ...。正直がっかりだよ。ボクの中ではグリザリード君は転生人の中でも一二を争うほどかっこいい転生人だと思ったのに。そんな小癪な時間稼ぎを続ける男だったなんてね。
再生しては破壊され、再生しては破壊されの繰り返し。魔王の言う通り、延命のための時間稼ぎのようにしか思えない。
♢
「ヴィク、不死の能力ってさ、時間の巻き戻しによる殺害も無効になるのかな」
「不死と言っても色々ありますからね。死んでも無限に生き返ったり、攻撃が効かなくて死ななかったり、死ぬという概念がなかったり」
「俺はどれだろ」
「だから知りませんって。でも一つ確実に言えることはもしアクトが巻き戻し能力を受けたなら不死の能力を得る前まで巻き戻されて死にますよ」
「逃げようか...いや、俺一人になっても帰る場所も頼る人もいなくなるしな」
♢
「グリザリード君、もういいよ。飽きてきた。死んでよ。ボクの《無限再生》の前に君の能力は無意味すぎる」
「.......そうか、無限再生か。確かに相性が悪い。死ぬかもしれん。ならば死ぬ前に名乗ろう。我が名はグリザリード・シュバルツ・ヘルベス。いざ、全身全霊を以て貴様を破壊し尽くす」
「はぁ?」
《
秘策があるのかと思いきやグリザリードが再びとった行動は何も変わらぬただの延命のための破壊。たださっきより破壊の速さが増しており、全身を完全に再生するとなるとかなり難航する。
「なんだよ、結局打つ手なしじゃないか。無駄な努力お疲れ様」
「おい群体生物。お前の人生はここで終わるわけだが...名前、なんと言ったか。ビルミルとかそんな感じだったか」
「違うよ。全然違う」
「ブルプルとかか?」
「考えてないでしょ、適当に言ってるでしょ。そもそも名乗ってないし」
「そうだな。適当だ。俺様が前世で住んでいた日本という国に遥か昔に存在していた武士は、互いに名乗り合ってから決闘を始めていたんだ。だから先ほど俺様も名乗った。だがお前の名前などどうでもいいな。どうせ明日には忘れる」
グリザリードは初対面の時のような挑発的な態度を取る。
「明日には忘れるも何も君はここで死ぬじゃん」
魔王も挑発だと察しているため、感情的にならないようにしている。
「えーと、お前は確か、下っ端クソ雑魚スライムのムリュリュとかだったか?気持ち悪い名前だな」
気持ち悪いもなにもグリザリードが適当につけた名前だ。
「ボクの名前はそんなんじゃない!」
「すまん。見た目の感じで適当に名前をイメージしてしまう癖があるんだ。俺様は顔面至上主義でな。お前のいまの姿が獣の糞のように無様だから、思わずそういうテイストの名前にしてしまった」
「誰が糞だ!」
魔王による怒りの全力再生。上半身が急速に精製されていく。もちろんグリザリードは破壊を緩めたりせず、全く再生させない。指パッチンの音はまさにマシンガンの轟き。一秒たりとも休まない。特に手だけは絶対に再生させないようにしている。
「ボクが糞?ならそんな糞の能力に怯えて手だけを重点的に破壊しているビビりは誰かな?」
「誰かなと言われても、俺様の名はグリザリード・シュバルツ・ヘルベスだ。さっき言ったはずだが?あっ...そうか」
何かに気がついたような素振りを大袈裟に見せる。
「すまない。そうだよな。スライムなんだから一分も前のことを覚えられないよな。すまなかった。配慮がたりなかった。人間より知能が下の生物なんだから当然のことなんだ。気にしないでくれ。自分の名前もきっと忘れてしまっているんだろう」
「なんだとゴラァ!!!!今すぐぶっ殺す!!!!!!」
「やってみろ、えーと、ブリブリン...だったか?」
さすがに自分の名前をブリブリンと言われて憤怒しない者はいないだろう。魔王の怒りは頂点に達する。
「...ボクの名前は、『スライムキング:エンペライム』だ!」
その時、グリザリードの破壊能力が止まった。先ほどまで一息つく間もなく破壊されていたというのに急に止まったため動揺したが、燃料切れだと察しすぐさま殺しにかかる。破壊が止み、
「エンペライム!お前の《
「喰らえ!《
確かにエンペライムは原点回帰を発動させた。今もさせている。なのにグリザリードには何も変化がない。それに発動させる前にグリザリードが何かを言いながら指パッチンをしていた気がする。
「え...あれ、どうして...?発動しない...?」
何度指を向けてもグリザリードの時間は戻らない。
「.......ふー。今までで一番神経を使った賭けの勝負だった。少しでも違えば死んでいたな」
敵の能力が発動しないことを確認するとどっさり汗をかき、脱力した。グリザリードの指は擦り合わせ過ぎて皮膚が剥がれ、血が流れ出ている。
「な、なにをしたんだ...!」
「ふっ、全く同じセリフをラムラも言ってたぜ。立場が逆転したな」
「答えろ!!!」
「.......賭けだった。賭けだったさ。お前が俺様の挑発に乗ってなきゃ死んでいた。だがお前は挑発に乗って自分の名前を答えた」
全身の力を使い果たしたのか、グリザリードの喋りに余裕がない。呼吸もかなり荒くしている。
「まさか、名前を知ることで」
「そう。能力者の名前と能力名を言い、それを破壊すると宣言すれば能力すら破壊できる。それが俺様の万物破壊だ」
「.......ボクが、このボクが、言葉で出し抜かれるなんて...」
「そういやもう一つお前の能力で、名前を自ら吐露したやつがあったな」
「あぁぁ...!やめろ、それだけは...!」
エンペライムは急速に青ざめ、グリザリードにそれを言わせる前に仕留めようと手を伸ばすがもう遅い。
「消えろ、雑魚キャラが。エンペライム、お前の《無限再生》を破壊する!」
最後の指パッチン。エンペライムの体はバラバラに飛び散り、再生することもなかった。
♢
「すげぇ...!グリザリードのやつ、挑発で魔王に勝ちやがった...!」
緊張感ある戦いを見終わって興奮しまくりのアクト。転生人の予想以上の強さにニヤけが止まらない。
「アクト、なぜ興奮しているのです。転生人が強ければ奪うのも困難ということですよ」
「いーや、こういうのを待っていたんだ...!正直、俺の演技と剥奪の能力があれば楽勝だと思ってたが、この世界、楽しすぎる...!」
強敵を前に興奮するなど変態もいいとこだ。
「これからどうします?」
「いやはや、グリザリードはかっこよかったな。あいつは強いよ」
「一旦引くのですか?」
「奪うに決まってるだろ。弱っているところを狙うなんて卑怯だとか言うなよ。俺はこの世界の悪役だ」
アクトは咳をし、声の調子を病人のケンジのものに戻し、扉を開けてグリザリードの元へ向かう。
「グリザリードさん、勝ったのですね...!」
「ケンジ...だったか。あぁ、なんとかな。だがラムラたちは...」
「そんな...」
アクト、はふらふらと膝をつき、涙を流した。嘘の涙だが、アクトの演技力を持ってすれば泣き演技など朝飯前。
「ほら、手をかせ」
グリザリードは膝をついて下を向いているアクトに手を差し伸べる。
「(勝った...)」
とは思いながらも決して喜びの感情など面には出さない。アクトは手を掴むため顔を見上げるが、手を掴む前に体は硬直した。
「.......?」
グリザリードは気づいていない。
「グリザリードさん!上に」
当人が上を向いた時には目の前に半透明のものが落下してきていた。
「がぁっ...!ぐっ、離れろっ...!」
天井から落下してきた野球ボールほどの大きさのスライムはグリザリードの顔面にまとわりつき、口から侵入してゆく。完全に勝利していたと思い込んでいたグリザリードはパニックに陥り、万物破壊をする間もなくスライムに完全に侵入された。
「バカだなぁ、人間って.......。ここはボクの城なんだから保険ぐらいあるに決まってるじゃん」
グリザリードが声を発しているが、アクトにはそれがグリザリード本人ではないと分かる。
「お前は、エンペライム...!」
「乗っ取り完了...ふふ...」
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