第189話【腹の虫がおさまらない】

「死んでも良い・・・そう仰いましたが無策なのでしょう?

私は沈む船には乗りたくないですね」

「だが君の乗る船はもうこの沈む船しかないのだよ」


ゴーチエが立ち上がりミシェルの顔を覗き込む。


「君は私と心中するしかない」

「そんな・・・・・無茶苦茶な・・・・・」

「主人を見捨てたんだ、 この程度の事は想像してしかるべし」

「・・・・・」


バンッ!! と私室のドアが開かれる。


「ゴーチエ大公!!」


息も絶え絶えにパンが叫ぶ。


「如何したのかね?」

「防衛線が突破されました!! 直にここに国王の軍がやって来ます!!」

「予想よりも早いな」

「国王自ら戦線に立っている様です!!」

「逃げさせて下さい、 お願いします」


懇願するミシェル。


「ヴォルフガング殿下は如何している?」

「逃走の準備です」

「意外だな」

「兵力の頭で有るハンス殿が逃走を強行している様で止むを得ずと言う事らしいです」

「そうか・・・」

「もう無理でしょう、 諦めましょうよ」

「せめて憎いあの糞野郎に一太刀入れないと気が済まない

パン、 私はここで殿を務めましょう」

「では私も御一緒します、 王を許せない気持ちは私も同じですから」

「パン様・・・貴方もですか・・・」


肩を落とすミシェル。

ゴーチエの城には殿としてゴーチエとパン

ボロボロのミシェルが残されたのだった。

パンの部下の近衛兵はヴォルフガングに付かせた。


「近衛を何人か残しても良かったのではないか?」

「死に行く我々に付き合わせる事も無いでしょう」

「私は解放してくれないのですか?」

「君は優秀だから私と言う枷が無い世の中では何をするか分からない

冥府まで付いて来ると良い」

「正気じゃないですね・・・一体如何するつもりですか?」

「簡単な話だよ、 この城には様々な罠が仕掛けられている

その罠に嵌めて殺すだけだよ」

「外術で城毎吹き飛ばされると思いますがね」

「それは大丈夫だ、 パン殿、 一つ伝言を頼まれてくれませんかな?」

「伝言ですか?」

「えぇ、 こちらに手紙が有るのでフォースタスに届けて欲しいのですよ」

「・・・・・分かりました、 隙を見て殺せるようだったら

王を殺しても構いませんね?」

「構わないですが、 良いのですか?

恐らく殺されるでしょう」

「構いませんよ、 このままでは私の腹の虫がおさまらない」

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