第188話【口は口、心は心】

「ミシェル、 私は君を買っているんだ」


ゴーチエは自分の城の自室で傷だらけのミシェルを前に口を開く。


「己の主を裏切り

自分が成りあがる為なら何でもするハングリー精神と言う奴か

その根性、 何が有ったか知らないが凄まじい物だと思うよ

機転も聞くしな」


ゴーチエは膵臓を弄ぶ。

ミシェルが手土産にスクラッチ経由で受け取った物だ。

王へ献上する事はしなかった。


「何処で情報を知ったか知らないがファウストの死体の精巧な偽物を造り出し

それを手土産に私に取り入るとは恐れ入った」


ミシェルが持っていた膵臓は偽物だったのだ。

ファウストの死体の様に体に取り込める代物だが異物感があり

長時間の使用に耐える事の出来ない代物である。


「そして君は優秀だ、 秘書としての役割は十二分に果たしたし

参謀としても優秀だ、 個人的にはウェブスター・・・とまではいかないが

充分だと私は思っている、 だから今更逃げ出さないでくれよ

君を痛めつけたくないんだ」

「・・・・・」


キッ、 と睨むミシェル。


「そんな顔も出来たのかね」

「今のこの状況・・・貴方に着くメリットが見当たらないんですよ

そもそも何で貴方は王に反旗を翻したんですか?

王と戦うメリットが有るのですか? 外術を使える相手に戦争なんて馬鹿げてる」

「相手がフォースタスじゃなければ私だって控えただろう」

「・・・・・つまり?」

「正直に言おうか、 私は王座とか権力とかモラルだとか

法だとか国だとか如何でも良いんだ、 私はフォースタスが嫌いだ

だから奴には死んでほしい、 その為ならば私は死んだって良いんだ

その為に色々準備をして来たんだ、 奴が外術を使えるようになったら

このまま放置すればもっと力を付けるかもしれない

ならばここで殺さなければ私は奴を殺す機会に恵まれる事は無いだろう」

「何故・・・王を憎むのですか・・・」

「あれは私がまだ学生だった頃まで話は遡る

私には当時、 恋仲とまではいかぬも親しい女性が居た、 後の王妃だ」

「・・・・・・・女を取られたから憎い・・・と?」

「私が唯一結婚を考えた女性なのだ

その彼女を奪われたのが憎々しい、 やることなす事憎いのだよ

君は若いから知らないかもしれないが私位の年になると

もう憎む事がライフワークになって来ているのだ

ここまで感情を表に出せたのは初めてだよ、 君には感謝している」

「・・・・・そうですか」

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