第75話【飢えの中にて】

日が昇った頃から猿を殺し続けて日が落ちて来た。

猛烈な飢えがグレートヒェンを襲った。

全力で動き続けて体が栄養を求めているのだ。


「なら食べれば良いか」


そう呟いて


「キィー!!」


飛んできた猿を唐竹割にし


「あんぐ」


頭に噛みついた。


「キィ!?」

「キィ・・・」


猿達も動揺していた。

いきなり食われるとは思っていなかったのだ。


「んぐ・・・ん・・・」


猿の頭を咀嚼し嚥下するグレートヒェン。

昔興味本位で食べた牛の生肉よりも旨い、と言うのがグレートヒェンの感想だった。

現状味について議論するのは全くの無駄であるが

兎も角栄養源は確保出来た、生肉を喰らっての食中毒の問題は

ファウストの胃を取り込んだグレートヒェンには無縁の話だろう。

食事をしながらの激しい戦闘によるデメリットも恐らく殆ど無いだろう。


「では続けるか」


グレートヒェンは怯える猿達に向かい剣を振った。

横に並んだ猿達を横一文字で斬り払い屍肉にかぶりつく。

獣の様だと自嘲するも空腹は最高のスパイスと言うのか食事の手は止まらない。


「ギイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」

「キィ!!キィー!!」


猿達の中には恐怖で逃げ出す者も出始めた。

この山では彼等猿は捕食者、縄張り争いも有ったが新たなボスの君臨からは

自分達に逆らう者も居なかった、自分達は頂点だった。

だが自分達を喰らう者が山の外から現れた。

人間に置き換えると魔王がやって来た様な物だ。

猿達がその恐怖に耐えられなくても仕方ない。


「キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


だが猿達も負けてはいない逃げ出す者も居るが踏み止まり戦う猿も居る。

その猿達を殺し、喰らいながら夜が更けて行く。

草木も眠る丑三つ時になると残った猿は殺し尽した為

静寂が満ちる、グレートヒェンは火打ち石で火を起こした後に

殺した猿の肉を焼いて食べた、今までの生肉とは雲泥の差だった。

粗方肉を食べ終えるとグレートヒェンは呟いた。


「眠くなって来た・・・ファウスト、私は眠るから貴方が代わりに起きて

私の体を動かすって事は出来る?」

『無理だな、だが君が寝ている間、周囲を見張り

危険が来たら君を起こすと言う事は出来る』

「じゃあ頼むよ・・・」


そう言うとグレートヒェンは死んだ様に倒れて眠り始めた。

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