第76話【穴の中にて】

山の中の大穴の中、金銀財宝が山になっている中に座る二つの影

猿達が戻って来てその陰に報告をした。


「キキィ!!」

「キ、キィ!!」

「キィイイイイイ!!」

「・・・・・」


報告を聞いてべちゃり、と穴の主は猿達を殴り殺した。

横目で自身の協力者を睨む。


「ん?どしたの?」

「・・・・・」


力を得た今なら殺せるか?と逡巡する、しかし


「おっとっと」


財宝の山に足を取られ転びそうになる影を見てこの穴の主は思い留まった。

この金銀財宝の山の持ち主だったこの穴の前の主を思い出した。


その主は巨大な翼の生えた四つ足の大トカゲ、口から火を吐き

鋭い爪は猿達は愚か岩山ですら砕く恐ろしい怪物。

力を得た自分でも殺される一歩手前だった、この影が助けてくれなければ

間違いなく死んでいた、この影は明らかに自分よりも

いやこの世の何者よりも強いのではないか?と穴の主は思った。


「まぁいいや、あしたもさるをむかわせつづけて」

「・・・・・」


幾ら何でも猿を使い過ぎでは無いのか?と穴の主は思う。

無駄遣いだ、意味が無い、その意味で影に目を向けるも・・・


「なにそのめは?」

「・・・・・」


抑揚の無い鳴き声は自身の態度に対する不快感を露わにしていると穴の主は理解した。

即座に穴の主は目を伏せた。


「いいこ、いいこ」


穴の主を撫でるその手でこの巣の大トカゲを殺したと思うと穴の主は

震えが止まらなかった。


「うんうん、じぶんのたちばがよくわかってる、いいこだねー」


屈辱よりも恐怖が勝る、この恐怖を知っているのに

猿共は恐れて逃げた?馬鹿が

あの娘よりも恐ろしい存在がここに居ると分からないのか。


「さてと、じゃあそろそろねるわーおやすみー」


そう言うと影は倒れた。

穴の主は穴の外に出た、空には月が輝いていた。


「・・・・・」


月に手を伸ばしても届かない、強くなった今でも未だに届かず

大岩を投げ当てようとも思えない。


「・・・・・」


強くなった今でも月は遠く届かない、強くなった所で影にも勝てないだろう。


「・・・・・」

「キィ・・・」


不安そうな眼で穴の主を見る猿。


「・・・・・」

「キ・・・」


穴の主が軽く手を振うと猿は下がった。

自分は力を手に入れた、その力で自分は何をしたかったんだろうか

と穴の主は月を見上げながら思ったのだった。

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