第16話【聖女の評判】

ここはドナウエッシンゲンにある場末の酒場の一つ

今日もここで色んな連中が酒を呑みながら文句を言い合っている


「聞いたか?スラムに対して結構な予算が投じられるって話」

「きーたきーた、何でも騎士団達もやっと重い腰をあげたらしいな」

「あの餓鬼達にはほとほと困っていた所だよ」


商店を営んでいる親父達が嬉しそうに話している、そこにやって来る騎士二人


「お!!騎士様じゃねーですか、奢らせて下せぇ!!」

「悪いな」

「おーい、ねーちゃん!!もう二つ追加ねー!!」


良く見る風景である

騎士等の公的な人々と仲良くするのは商店を営んでいる者達にとっては悪い事では無く

また、騎士達もこうして奢られる事を期待して汚い酒場へやって来るのだ


「噂は聞きましたよ!!あのスラムの浮浪児共を一掃するとか!!」

「その件についてはまだ保留だ」

「聖女様が予算の申請を差し止めたとか」

「マジすかー・・・」


白ける親父達


「皆がっかりしているけど個人的には良いと思う」


騎士の一人が空気を変えようと話し始める


「何で?・・・スか?」

「考えても見ろよ、餓鬼が原因で予算上げてくれとか言えるか?」

「いやお前なぁ、結構被害が出てるの知ってるだろ?」


騎士が同僚の見識を諫めようとする


「それは俺も知ってるよ、だけども王都のお偉いさんに言ってみろよ?

馬鹿にされちまうぜ?予算が通っても俺達は餓鬼が手に負えない無能って事になっちまう」

「そいつは困るな」

「だろ?俺達騎士団だけじゃねぇ、この街全体が餓鬼のお守りも出来ない連中って見られちまう」

「そいつは嫌だなぁ・・・」

「聖女様は賢い方だ、そこまで見越しているとは・・・」

「勇者様の仲間だけは有るな!!」


親父の一人が口にするとざわっ、と酒場が静まった


「・・・・・すまねぇ、失言だった」


国を救った英雄だが仮にも処刑者を称える事を言ってしまい

しまった、と言う顔をする親父、しかし騎士はぽんぽんと肩を叩きながら


「気にするな、この街では勇者の事を喋っても不問になると聖女様がお触れを出したの忘れたか?」

「あ、ああそうだったッスね、忘れてましたよ騎士様、へへへ・・・」


そうこうしている間に人数分の酒が運ばれて来た


「お、来た来た、じゃ我らが聖女様に」

「「「「「乾杯!!」」」」」


そう言いながら親父達と騎士達は乾杯をした

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