第13話【名も無き物語】

グレートヒェンを押し倒し喰おうとする少年

だがしかし


ドグチャ


「!!?」


何かが割れた様な、肉が裂けた様な

その両方が混ざった様な異音の後に少年は腹を押さえ悶絶した

何が起こった!?と少年は混乱し仰け反る所か吹き飛ばされた


「ッ!!」


先程の蹴りとは比べ物にならない威力だった

自分は彼女を押さえていたのに何故!?少年は限りなく混乱した

急ぎ立たねばならない、と起き上がった

目に移ったのはドアから剣を抜こうとする女性

何故だか先程よりも不味そうな

いや、如何でも良い喰わねば死ぬ、そう言わんばかりに飛び掛かろうとする


しかし少年の目は逸れた

何故だかとても旨そうに見える物が他に有ったのだ

それは床に転がった生首、誰の生首?だが旨そう


その一瞬の隙の後に少年は自分の視界がグルグル回り出した

先程から一体自分は何をされているのか、少年は混乱を通り越し冷静になって判断しようとしたが

旨そうな生首が目の前に近付いて来た、ならば喰おうと体を動かそうとするも

体が動かない、不思議に思う少年だった


「まだ生きているの!?」


女の悲鳴にも似た声が響き渡る


「死体を取り込んでいるのだろう

死体を奪い取れ、腹の所、恐らく胃袋だ」


目の前の生首が冷静に話す


「分かった!!」


先程から何をしているのか何を喋っているのか分からなかったので

グレートヒェンの方を見る少年


そこには剣を構えたグレートヒェンが首の無い自分の体に剣を突き立てていた


「やめ」


て、と言う前に

ずしゃり、と剣が腹を引き裂き、腹から肉の塊を取り出したのを確認した少年は

そのまま意識を永遠に失った





「・・・・・倒した・・・の?」

「その様だ、その少年の力の源たる勇者ファウストの胃袋を抉り出したんだ

その少年は唯の少年に戻り、そして唯の少年は首を刎ねられれば死ぬ」


冷静に事実を語るファウストの頭


「そう・・・これが君の胃袋?」

「その様だ、実物を見るのは初めてだが」


頭部と同様、グレートヒェンの体にめり込み同化する胃袋


「何とか上手く行ったみたいね・・・」

「ふむ、私を体内から射出して相手に当てると言うアイデア

中々に悪くは無かったと思うが君がそのアイデアに身を委ねられなかった様だね」

「上手く行ったけど・・・間抜け過ぎない?」

「そうかな?もっと君が真に願えばこの少年の胴体ごと貫けたはずだよ

少なくとも君が来ている鎧は貫けたんだし」

「・・・・・」


自分の着ている鎧を見るグレートヒェン


「今度から鎧着ない方が良いかな・・・」

「毎回鎧を新調するなら其方の方が賢い選択だと思うよ」

「うん・・・」


立ち上がりファウストの頭部を拾い上げ体内に入れるグレートヒェン


「・・・・・」


そしてそのまま納屋に向かう


『如何したんだ?このまま次の死体探しに行かないのか?』

「この少年を埋めてから行くよ」

『何故だ?彼は敵だろうに』

「そうだけど、さ・・・せめて死んだら土の下に行くべきじゃない?」

『ふむ、まぁ君の好きにすれば良いよ』

「うん・・・」


グレートヒェンは少年を埋めて細やかな墓を建てた

見舞う者も無く墓碑名も無い、石を積み上げた様な粗末な物だった

建てる意味は無い、それでも建てる意義が有るのだろうか

グレートヒェン自体も分かっていないのだろう

だがしかし命を奪ったのだから、喰わないならばこうするしかないだろう

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