右足の章

第14話【聖女の憂鬱】

大聖城

嘗て王国が外法の使用によって不安定になり

不安定な国を無理矢理押さえつける為に作られた巨大な城の一つ


その荘厳なる様は人々を集め

この城の周辺に作られた都市ドナウエッシンゲンの人の多さは

王国首都シュタウフェンにも勝るとも劣らないと言われている

だがしかし人の多さが必ずしも良い事だとは言えない


ドナウエッシンゲンは主に表通りを中心に建て替えられた美しい街並みと

ドナウエッシンゲンが成り立った当時からそのままの旧市街地に分けられる

旧市街地とは良く言った物でドナウエッシンゲンに住む人々からはスラムと呼称される


陰と陽が同居し隣り合った街、と言えば聞こえは良いが

実態は国内有数の犯罪率の多さが目立つ都市である

スラムの入り組んだ地形は長年この都市で治安維持に勤める騎士達も把握しきれず

スラムの住人達も一筋縄ではいかない者ばかり

子供であっても殺人経験者もザラに居ると言うまさに魔境である


だがしかし治安の悪さとスラムの複雑さ故か魔王侵攻時には狙われずに済み

戦後復興も殆ど無かった稀有な都市でも有る


そんな幸運な魔境に一人の少女がやって来た


少女の名は聖女ゾルゲ、嘗て勇者と共に戦った仲間の一人

高位神官で若くして大司教の地位に座った才女である

ここにやって来た理由は

魔王討伐前に亡くなった領主に代わりこの地を治めよと言う王の命による物である




「とは言ってもなぁ・・・私に政治なんか無理だよなぁ憂鬱だなぁ」


大聖城の自分の執務室で憂鬱になっているゾルゲ


「こんな治安悪い所に飛ばされるとかマジで勘弁して欲しい

これ誰が如何見たって左遷だよなぁ・・・」


一人で愚痴っている聖女

他の勇者の仲間達は皆それぞれが良いポストを用意されているか

自分の進みたい道を進んでいると言うのに自分は左遷させられているのが余程堪える様だ


「断れたら良かったのになぁ・・・特にやりたい事も無いし・・・

ファウストが居てくれたらなぁ・・・」


処刑された勇者を想うゾルゲ、自分の神官としての能力を評価し

勇者パーティに引き入れ、共に魔王の軍勢に立ち向かった日々がまるで遠い昔の様に感じる

あの激闘の日々から1ヶ月も経っていないと言うのに何故だろうか・・・


「はぁ・・・憂鬱だ・・・」


自分の執務机に項垂れるゾルゲだった

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