第10話【二人の物語】

少年はグレートヒェンを意に介さず只管人を食っていた


「・・・・・」


グレートヒェンは剣を突き付けながら少年に近付いた

近付き過ぎず、何が有っても対応出来る距離を保ちながらグレートヒェンは声をかけた


「そこな少年、こちらを向け」


立ち上がり、ぐるり、とこちらを振り返る少年


「お姉さん」

「何?」

「美味しそうだね」


言うや否や一気に距離を詰め噛みつこうとする少年

そしてその少年の腹を思い切り蹴り飛ばすグレートヒェン


「!?」

「がはぁ!?」


互いに驚愕の表情を浮かべる

グレートヒェンは自分が対応しきれないスピードに

少年は蹴られた事に


「がはっ、げほっ、~~~~~っ!?」


少年は喰った物を吐き出しながら悶絶し

窓から飛び出して逃げ出した


「待て!!」


追いかけようとするグレートヒェン

だが先程逃げ出した様に捕らえられない程の猛スピードで逃走する少年の後ろ姿を見て絶句した


「何アレ・・・人間はあんな早く動けるの?」

『死体に残った外法の力の一端だ、真に願えば何でも出来る』

「じゃあ私にも同じ事が出来るの?」

『出来る、が、あの逃げた少年を追いかける為に急くのはお勧めしない』

「何故?」

『あんな物理を超えたスピード長続きせん、バテた所を追いかけて仕留めれば良い

幸い、私は奴の居場所が分かるし』

「そっか、頭良いね」

『だがしかし、奴も警戒しているだろう、気を抜くなよ』

「安心しなよ、私は騎士、彼は見た所力を得ただけの子供

潜って来た修羅場の数が違う!!」

『やれやれ』


グレートヒェンは家から飛び出した








少年は走った、走った、走った末に足が砕けて倒れた

そこは村外れの牧場、牧場主も家畜も全て食い尽くしたので牧場跡と言った方が正確か


少年はこの上無く狼狽した、何なんださっきの女は!?

この上無く旨そうで、そして明らかに並じゃ無かった

蹴られた腹が未だに痛む、そして旨そうだった


「・・・・・これじゃあ駄目だ」


少年は考えた、蹴りも凄いし旨そうだったが盾と剣で武装していた

こちらも何か武器が必要だ、何か無いかと探したがピッチフォーク程度しかない


「一体如何すれば良い!?」


今まで村長を始め多くの村人達を喰って来た

その中で立ち向かって来た者なんか居なかった

そしてあんな旨そうな人も居なかった


「・・・?」


自分の顔に違和感を感じ手で触る


「よだれか・・・美味しそうだもんね仕方ないよね」


彼はよだれをふき取り、腹を括った

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