第8話【食べ物の物語】

テーブルを齧りながら少年は思う


『何かが足りない』


テーブルを咀嚼し喰らう、味が如何こう文句を言うつもりは無い

そもそもそんなに美味しい物を食べた経験が無い

強いて言うなら肉か、だがしかしそれでも自分が口にした肉と言えば

干し肉程度で今食っているテーブルと比べても大して良い物だったとは思えない


少年は椅子に座ってテーブルの脚を齧りながら考える


『味じゃないなら何が足りない?』


ボリボリとテーブルの脚を喰らうが答えは出ない

幸いな事に飢え死にする事は無くなったのだ

ゆっくりと考えれば良い

そう思いながら自分の座っていた椅子に齧りつこうとしたその時


ドンドン


家の外からノックが聞こえる、この家に来客とは珍しい


「どヴぞ」


久々に声を出したからか変な感じになってしまった


がちゃり、と外から入って来たのはこの村の村長


「こんにちは、村長、どうしましたか?」

「・・・最近の君が少しおかしいと思ってね」

「そうですか?」


バキッ、と勢い良く椅子を齧る少年


「それだよ」

「?」

「普通の人間は椅子なんか喰わんぞ、君、一体どうしたんだ?」

「いや、お腹空いてるんで」

「腹減っているとしてもだ、そんな物喰うなんておかしいぞ」

「何か美味しそうに見えません?」

「見えないぞ」

「まぁ食べ物の好みは人それぞれですから」

「何を言っていやがる」


バキッバキと椅子を食べ進める少年


「人が話しているのに食べるな!!」

「食べるな?僕が飢えているのに食べるな?」


椅子を粗雑に倒し捨て村長に向き直る少年


「僕がお腹空いてるのに食べるな?

食べたくて仕方ないのに食べるな?

私が望んでいるのに食べるな?」

「お、おい・・・」


村長に近付く少年


「そ、それ以上近付くな!!」

「私の食事を邪魔しているのにタダで済むと思っているのか」

「!!」


逃げ出す村長、少年は後ろから抑え込み肩を食い千切った

絶叫する村長、溢れる血液を浴びながら少年は歓喜に振るえ涙した

村長は少年を突き飛ばして逃げ出した


倒れながら少年は思った


『暖かく柔らかい食べ物の何と美味なる事か!!』


少年は笑みを浮かべ、そして外に食事に出かけた

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