第7話【大人達の物語】

「最近、あの小僧の様子が可笑しい」


村の会合で村長が口にしたのは両親も唯一の肉親の祖父に先立たれた哀れな少年だった


「村長、可笑しいも何も今にも飢えて死にそうな餓鬼にあんた

どんな言いがかりをつける気だい」

「それなんだ、飢えて死にそうだったのに最近やけに元気が良い」

「燃え尽きる前の蝋燭は派手に燃えるって言うアレかい?」

「そうじゃない、奴は土を食っている」

「・・・・・地面に生えている草を食っているんじゃないのか?」

「喰える雑草はいの一番に俺達が取りつくした

あとは毒草とまでは行かないが喰えん草だ、ありえない」

「・・・村長、別に奴が土を食おうが何を食おうが関係無いだろ?

もう今年は収穫を終えたんだ、畑に入って野菜泥棒も出来ない」

「アイツは悪魔に憑りつかれているのかもしれん」

「村長、悪いけども誰かを蹴落としている暇なんかねぇんすよ

アンタは他よりも貯えが有るかもしれないけども俺達は爪に火を灯す位の状況なんスよ」


村長を村人達の冷たい視線が刺す


「取り返しのつかない事になるかもしれんのだぞ」

「じゃあ村長、アンタ一人で何とかしろよ、俺達は知らねぇから」

「・・・どういう事だ?」

「身寄りの無い餓鬼一人居なくなっても俺達は認知しねぇって事だ」

「私にあの小僧を殺せ、と?」

「別に如何だって良いよ、そろそろ良いか?内職やらないといけないんだ」


村長以外の人々は会合から抜け出し後には村長一人だけが残っていた



この村長、名前はおいておこう

皆が村長と呼ぶので村長になってから名前で呼ばれる事は無かったのだから

特に彼に何か他より優秀な技能が有った訳では無い

親が村長だったので跡を継いだだけである

だがしかし昔から村の事を思ってやって来ており

公共事業やサーカス芸人を招いての祭り等に積極的に私財を投じている

良かれと思ってやった事が空回りする事もあるが

基本的に良い村長である


但し彼は昔から少年の祖父と諍いが有り確執が有った

理由は分からない、本人も忘れている

恐らくは大した事では無かったのだろうが何と無しに

祖父達一族に対しての風当たりは強い

もしも少年が普通の何処にでもいる少年ならば

こっそりと裏から手を回して助けていただろう

だが少年は村長にとってはいけ好かない奴の孫である

逆に村長は排斥に走っている、村民もそんな村長の態度に呆れているが

貯えの無い自分達では助けられないと放棄している


少年に関わろうとしているのは余裕があり

敵視している村長のみと言う何とも皮肉な話である

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