第13話 俺は答えに辿り着く

 怒り。

 愛。

 炎と関連する感情は他にもあるかもしれないけれど、俺が聞き込みできる人物はこれ以上いない。つまり、他人から集められる答えはこれ以上ない。だから俺は、言うなれば、段階その二に移行することになった。

 調査段階その二は、現場検証だった。この事件において、『現場』は二つある。自宅の風呂場と私立七星高等学校の地下二階の空き教室。こういうのは事件が起こった順番に調べていくのがいいのだろうが、今の俺は高校生として学校で過ごしているので、選択肢は後者を選ばざるを得ない。

 過ごしている、という遠回しな言い方は俺が授業に出ていないからだ。授業開始のチャイムで図書館を出たけれど、それイコール授業を受けるというわけではない。俺にとっては。あの真面目風学級委員長にとってはチャイムの前に着席しているだろうが、俺はあいつじゃない。授業なんていくつもさぼってきた。今更だ。

 そういうことで、俺は地下二階の空き教室にいた。昨日、若月ともに行ったときに、サラマンダーに燃やされた教室は、何事もなかったように教室だった。詳しく言えば、俺たちが空気の入れ替えをしたのであまり埃っぽくはなかった。カーテンは空きっぱなし。

 あれは怪異の炎だったから、実際の炎じゃないから、リアルなものは焼かないのか。

 焼く。

 炎といえば、そういうのもあるか。

 燃やす。焼く。

 そういうことをしたいという、とても直接的な感情もありえる。言うなれば、欲望だ。燃やしたい、焼きたいという危険な欲望。もっと言えば、俺を燃やしたり焼いたりしたいという欲望だ。この場合、理由はどうでもいい。俺を燃やすために、いつだって俺を探す。見つけ次第、サラマンダーの炎で燃やす。

 そこまで考えて、俺は頭を横に振る。

 その可能性は低い。二度の襲撃はいずれも被害は大きくない。だから陽菜にも知られていない。クラスでも話題になっていない。

 だから多分、この件は燃やしたいほどの思いが生んだ怪異事件である。

 しかし、そんな見当をつけても犯人の見当はつかない。俺に関わる人間は数少ないが、当てはまりそうな選択肢がない。知らないところでそういう感情を抱かれているという選択肢もなくはないが、それが答えだったら俺は解決できない。あの人間を守ることを職としているあの人たちに任せるしかない。その場合は、頭を地面に擦りつけてお願いするしかない。

――と、そんなことを考えていると、急に教室の扉が開いた。

俺は一人で調査している。誰かと待ち合わせしたり、別行動しているわけではない。たった一人で行動している。そんなところに来客なのだから、予期せぬ来客であることは分かった。

誰だ。先生か? 海凪先生? だったらそこそこの対処で切り抜けられるが、他の先生だったら教室に戻されるかもしれない。しかし、俺の予想は当たらない。

「なんで、一斗が?」

 茶髪交じりのツインテールを揺らしながら、その声は発された。

「み――三留」

「い、いやあ、一斗。会えてすっごく嬉しいよ! 五時間目の授業を同じ日にサボるなんて偶然だね!」

「三留、俺は……」

「これが世に言う運命ってやつかなあ? うわあ、嬉しい! テンション上がってきた!」

「ちょっと待って……」

「どうするどうするう? 何するう? 先生に見つからないように学校探索とかするう? いっそのこと学校抜け出しちゃう? あたしは一斗と一緒なら――」

「三留!」

 俺は授業中だということを忘れて、叫んでいた。三留は驚いた表情をして固まった。

 どうしてここに――という疑問は、言葉にする前に消滅した。別の、もっと大事な疑問にぶち当たったからだ。

 いや、これには証拠はない。勘というか消去法だ。選択肢にバツをつけていったら、一つだけ限りなく三角に近いバツがついた、というかなり微妙な消去法だが、答えを出すならこれを選ぶしかない。

 俺は三割くらいしか確証がない答えを、俺は突き付けた。

「サラマンダーって、お前か? 三留千夢」

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