第8話 炎のドラゴン、再び
俺が密談の場所として選んだのは、地下にある使われていない教室だった。この学校は地上三階建て、地下二階建ての建物で、地下二階は生徒立ち入り禁止区域となっていて、使われなくなった教室が並んでいる。
階段を下りて、目の前にあった教室に入った。埃っぽかった。カーテンも閉まっていたから余計に。とりあえず本題を始める前に、この埃っぽいじょうきょうをどうにかした。窓を開けた。それだけで何とかなるわけではないが、気休めにはなった。
「こんなことするくらいなら、屋上でよかったのに」
「うるせえ」
嫌いなこいつをいじめたかったのかもしれないが、もう一度あの寒い場所に行きたくなくて、こんなところを選んでしまった。今思えば、嫌いなこいつの言う通りにすべきだった。今更移動しないけれど。
「で、話って何かな」
「俺は早急にこの事態を収めたい。そのためだったら何でもする」
「何でも?」
「何でも。俺にできることだったら。だから、今はとりあえず謝っておく。朝、叩いちまったこと」
俺は渋々頭を下げた。あいつを嫌いだと言ったやつに、謝罪で頭を下げるなんて本当にごめんだったが、早く全てを片付けたい。
「それって、陽菜ちゃんのため?」
と、彼は言ってきた。
それ以外ないだろうが。バカ。
という出かかった言葉を飲み込んで、俺は答える。
「お前が嫌いだからだよ」
「まあ、どうでもいいけど。俺は仕事だし」
じゃあ俺は仕事じゃないから、この件から離脱したい。が、そんなわけにはいかない。発端は俺なんだから、それなりの責任がある。仕事でこの件に関わるこいつと同じか、それ以上に。
屋上で言われたことは、正論だ。というか、俺が身をもって知っている。怪異に出遭ったその瞬間から、俺は怪異になった。ドラゴンという怪異の関係者になった。見ないふりなんてできない状況になった――責任が生まれた。
だから、今更この件から抜けることなんてできない。
「さて、話を伺おうか。君の――」
――と、ようやく仕事を始めようとしたそのときだった。俺たちのもとに、歓迎できない来客たちがやってきたのは。
最初に異変に気付いたのは、俺だった。二人しかいないはずのこの教室から、異様な熱を感じた。燃えるような熱だ。焼けるような熱だ。じりじり迫っているのが分かった。
熱とともに音も迫ってきた。がさがさがさがさと、だんだん音が近づいてくる。それは危険が迫っているという表れでもあった。
俺はすでにこの感覚を経験している。でも、前は回避した。
脅威に出会ったときは、逃げるのが――
「南雲、下がれ!」
俺は当然の衝撃に防御すらできず、教室の角へ追いやられた。少しの怒りを感じながらも、俺はすぐに状況を理解する。
ここに現れたのは、炎をまとうサラマンダー。こちらへ迫ってきて、ついには教室のドアというバリケードを破って、侵入してきた。それを怪異の専門家の仕事として、若月は俺を守った。そして戦っている。突き飛ばしたのは、緊急措置だったわけだ。痛いし、こんなことをされてムカつくけれど、今はそんな怒りを込み上げている場合ではない。
――俺は今、襲われている。
そして状況はだんだん悪化している。俺を突き飛ばしてサラマンダーと戦っている若月が、だんだん後退しているのだ。サラマンダーの圧倒的な数と、それらが発する炎の威力に、完全に圧されている。
「おい、若月。このままじゃ、俺たち……」
「分かってる」
声に余裕がない。
俺の方が余裕はない。今の状況を突破する手立てを、俺は持っていないのだ。だから、俺はこいつに望みを託すしかない。
なんとかしてくれ。
このままじゃ、俺たちは二人とも、ドラゴンの炎に焼かれてしまう!
「南雲、強引に逃げるから、覚悟して」
覚悟? 痛みが伴うのか?
彼の言う覚悟は、そういうことではなかった。
若月は俺を大きく抱きしめた。
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