あなたが見限った世界の最果てで

ちびまるフォイ

すっかり老け込んでしまったその人

「よっこいせっと」


老人は立ち上がると腰をさすりながら庭に出た。

庭には荒れた土地でありながらも作物が育っている。


「大きくなるんだよ。おや、こっちは食べれそうだねぇ」


いびつな形をした作物を茎からちぎると家に持って帰る。

それをスープにして静かにすする。


「明日は、何をしようかねぇ」


老人は家にひとりで生活していた。


朝起きて作物に水をやって、食事をして、物思いにふけり、眠る。


そんなおだやかな生活をもう何十年も続けていた。

家を訪れる人もいなくなり、寂しさの感情すらも風化していた。


翌日も老人は自給自足を続けている畑に向かった。


「さて、実はなっているかねぇ」


畑を見てがくぜんとした。

育てていた作物はついばまれ無残なありさまになっていた。


「ああ、そんな……」


畑の柵には数羽の鳥がとまっていた。


「お前たちがやったのかね、ひどいことを」


追い払おうと土をにぎり、鳥たちに向かって投げた。

鳥は一斉に散ったが見つけた新しい餌場を手放すなどしない。

しばらくしたらまた戻ってきた。


「しっしっ!」


老人は鳥を追い払いながら慣れない手付きで畑にガードを張った。

その日は激しく身体を動かしたせいか老人はぱったり倒れてしまい

食事もせずに家で寝込むようになった。


「はぁ……いつからこんなに動けなくなったのかねぇ……」


家の天井を見つめていると足音が聞こえた。


「誰だい?」


「オテガミデス」


「手紙?」


ドアを開けるとサビれた配達ロボットが立っていた。

ロボットの足は壊れ、届いた手紙もすっかり古い。


「おや、これずっと前の手紙じゃないかい。

 いったいどれだけ届けるまで時間かかったんだい?」


「オテガミ、ジュリョウ。シツレイシマス」


壊れたロボットはまたどこかへ行ってしまった。

老人は手紙を開けた。


『 お元気ですか。

  街では世界終焉なんて騒がれていますけど嘘ですよね。

  今、世界中の人達が力を合わせて頑張ってるんだもん。


  また一緒にいろんな場所に出かけようね 』


「昔はそんなこともあったねぇ」


もう人が溢れていた昔の時代がよく思い出せない。

この家で過ごした日々があまりに長く人生に浸透してしまっていた。


翌日も壊れたロボットは老人の家を訪れた。


「オテガミデス」


「ロボットさんや。お手紙ご苦労さま」


「オテガミ、ジュジュリョウ。シツレイシママス」



『 こんな場所に閉じ込めてしまったこと怒っていますか?

  でも、世界終焉で地上にはもう住めなくなったもの。

  最後まで可能性を諦めたくなかったから……。


  目が覚めたときに、あなた以外もいる世界になっていますように 』



いつしか老人は手紙が来るのが楽しみになっていた。


この家に住み始めてから訪れる人などいなかった。

勝手にロボットに名前をつけては、毎朝訪れるロボットに挨拶をした。


「おはよう、ロボちゃん。今日も来てくれたんだねぇ」


「オテオテガミデス」


「はいどうも」


ロボットはずっと昔の手紙をそれも1通ずつ亀のような速度で配達している。

もうこの世界にそれを怒る人も直す人もいない。



『 この手紙を届くころ、もう世界にはあなたしかいません。


  もうあなたを助けることも、あなたが助けられる人もいない。


  地下から出たときに家があると思います。


  この世界を救える人間はもういないでしょう。

  どうかその家で静かに暮らしてください。


  あなたに責任はありません 』



「……もう50年経っているからねぇ、責任なんて感じないよ」


老人は手紙を部屋のテーブルに置いた。

地下から出たときには地上は荒れた大地で人もいなかった。


そこからひとりで畑をはじめての自給自足生活。

すでに老化で足腰も悪くなり、誰かを探すこともできはしない。


今では毎日訪れるロボットだけを待つ静かな暮らしを続けていた。


「オテ……ガ……デス」


「ロボちゃん?」


突然のことだった。

もう届ける手紙がなくなっても訪れていたロボットが動作を止めた。

パワーランプが消えてただの鉄の塊になってしまった。


「ロボちゃん、本当にいままでお疲れ様だったねぇ」


老人はロボットを家に運んで、毎日の話し相手とした。

ロボットの身体にホコリがつくことはなく、老人は献身的に家族として接した。


「ロボちゃんは、本当によく頑張ったんだねぇ」

「―――」


「ロボちゃん、聞いておくれよ。今日はたくさん実ったんだよ」

「―――」


「ロボちゃんと話してると、なんだか、落ち着くねぇ」

「―――」


「ロボちゃん、私も足が悪くなったのかね。最近は朝が辛いよ」

「―――」


「ロボちゃん、最近はあんまりお話できてないねぇ、すごく眠くてねぇ」

「―――」


「お腹が減ったねぇ……でももう歩けないよ……」

「―――」


「ロボちゃんと……たくさん……話せて……」

「―――」


「ロボちゃん……」

「―――」


眠りがちになっている老人の家のなかに鳥が入ってきた。

もう追い払うこともできず、ただ目で追うばかりだった。


鳥はいつか荒した畑の作物を、

もう噛むこともできない老人のもとに置いた。


「ありがとう……ね……」


鳥は隣に寝るロボットのように老人が動かなくなるのを見ていた。

やがて、畑が枯れるまで鳥は作物を届け続けた。


手付かずの作物の山に鳥もとまって、それきり動かなくなった。


そして、世界からすべての命の火が消えた。



 ・

 ・

 ・



「いかがでしたか。もしあなたが作品を完結させないまま、

 世界も救わせずに長らく放置すれば、やがて作品世界はこうなるんですよ」


「すみませんでしたァ!! すぐに完結させます!!!」



俺は未完結だった『女子高生と13隊の機械兵』を更新した。

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