第30話 戯ける悪行

 

 即死。

 後頭部から直径2cm、深さ10cmほどの穴。

 貫通はしていないが、致命傷となった傷だ。

 弾丸にしては大きすぎるその穴は明らかに銃以外の物でひとつきされたもの窺える。


 ガンマンの女性はしゃがみながら怯えていた。


 だが、シュルツ、エルシャ、ジェームズの3人は様子が少し違った。

 以前の戦いで一般鬼と悪魔族の新たな位の地位にまで力を得た3人は、五感が発達し、視界がスローに見えてくるという。

 男性がなぜ亡くなったのか瞬間的にも目視したようだ。

 だが、悪魔との差は歴然だということは、身をもって3人は知っている。

 もし、3人が考えている事が事実だとしたら一刻もこの場から立ち去る他ない。



 〈新たに鬼の思考する 生態ピラミッド〉


      悪魔族 → ミイ

    ーーーーー

     上鬼  → シュルツ・エルシャ・ジェームズ

   ーーーーーーー

     一般鬼  

  ーーーーーーーーー

      下鬼

 ーーーーーーーーーーー

     人間・奴隷

ーーーーーーーーーーーーー


 男性が突如として後頭部をひとつき。

 これは普通の人間ではわかることもないだろう。

 3人にはこう見えていた。


 女性ガンマンの腕を引っ張り、せがむ男性。

 一瞬の出来事。女性ガンマンの顔色が嫌悪から愛好へ。

 すると、女性ガンマンの人差し指が男性の後頭部を人刺し。

 そして男性は倒れた。

 簡易的に説明すると3人はこのプロセスを確認した。


 3人は視線を合わせ、一連の出来事を把握しているという事を認識した。


 ただ者ではない。

 一旦距離を引くべきか、この害虫をすぐさま排除すべきか

 3人は頭を悩ませ、じーっと女性ガンマンに視線を送り続けた。


「・・・・」


 3人の沈黙が続く中、3人が聞こえる低いトーンで女性ガンマンは言った。


「殺気というものはこうやって使うんだ」


 ガンマンの指の隙間から覗き込む瞳が急激に3人へ。

 女性ガンマンは3人に睨みを効かした。


「殺気を殺し切れていない・・」


 3人は背筋に恐怖が走った。鳥肌も全身に出てきた。


 この客がいる空間の中、3人は4人だけの世界のように感じ、周囲の音が消されたように恐怖を感じた。

 蛇に睨まれたカエルだ。


 硬直している3人に助け舟が出たように、飲み屋の扉が開いた。


 なだれ込むように武装した兵士が5人入ってきた。

 国の犬っていう奴らだ。

 主に反政府や犯罪者を取り締まる警備隊のような兵士だ。


「人が死んだという通報があり、駆けつけた!」


 兵士らは直ぐさま現場の確認に至った。


 3人は安堵。

 緊迫した空間で身動きすら取れない状況下において、このタイミングはありがたい。


 駆けつけた兵士達は事の発端や事件の状況などを、店のマスターへ事情聴取を行い始めた。



 * * *



「なるほど、それでその被害者の女性はどちらに」


「ええ、こちらに・・・」


 マスターが指差す方向に女性ガンマンはいなかった。


「あれ・・・」


「さっきの女性どこ行った?」


 すると、1人の客が


「さっきおもむろに店の外に出て行ったぞ」


「なに!?」


 兵士は店の外へ駆け出した。


 外には誰もいない。

 冷たい風が服静かな夜であった。



【NEXT】


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