第29話 難くない怯える女人

 

 透き通った声。

 女性ガンマンには程遠い声。

 茶髪を靡かせながら言った。


「ここ、座ってもよろしいですか?」


 女性の髪の毛の良い匂いが3人にただよせる。


 その問いかけに、一般常識的に相席などありえない事かもしれない。

 ただ、既に酔っている3人に一般常識など通じないかも知れない。


 3人は綺麗な女性を目の前にすかさず、


「全然!」


「一緒に飲みましょう!」


「あっ! では、失礼します」


 女性は席へ遠慮などせず座った。


「マスター! この子にビールを!」


「わっ! ありがとうございます!」


 ジェームズは鼻の下を伸ばしているということは見て取れる。

 身体を舐め回すように女性を分析。


 それを見つけたエルシャとシュルツは軽蔑の睨み。


「お3人はどういうご関係なんですか?」


 3人は一瞬固まったが、


「仲間だよ。仕事仲間。」


「何の仕事をしているのですか?」


「・・まあ、何だろう!? 私たちはこれから冒険に出かけるんです」


「へ〜 では冒険者ってことですね!!」


 4人が話していると、先ほど話しかけて来た男性が再び歩み寄ってきた。


「お姉さん 俺と飲もうよ〜!」

「俺お姉さんのことタイプかもしんない!」

「これから2人で違う店に飲みに行かない?」


「いや、まだ来たばかりですし。行きませんよ〜」


 親切にも断った。


「行こうぜ! なっ!」


 女性は明らかに嫌がっている。

 終いには女性の腕を掴み、無理やり誘って来た。


「やめてください!」


「いいじゃねーか!」

「早く行くぞ!」


「嫌です!」


 3人はその光景を目の当たりにすると、すぐさま立ち上がろうとした。

 だが、一瞬だった。

 3人が立ち上がった瞬間。

 それと同時に、男性は地面に大きな物音をたてて倒れた。


「!!?」


 大量の血液が倒れた男性の周りを覆っていく。


 3人は呆然とその瞬間を、その男性、その女性を見つめていた。

 女性ガンマンは悲鳴をあげ、それと同時に周囲の客も騒ぎ出し集まって来た。


「男が倒れたぞ!」

「何が起こった?」

「毒でも盛られた!?」


 店のマスターがゆっくり近寄ると、男性は即死していた。


 女性ガンマンは怯えながら状況を説明していった。


「この男性がいきなり倒れて・・・」


 マスターが男性の身体を確認していくと、倒れた男性の後頭部に直径2cmほどの穴が空いていた。

 これが死因の原因と言える明らかなものだ。


「これが原因だな」

「後頭部をひとつきだ」


 客たちは慌て出し、自身らが所持している武器を構えだした。


「どこから打ってきた?」

「誰だ!?」

「お前か!」

「俺じゃねー!」

「お前だろ!」


 突如と殺害された男に、皆、人間不信となっていく空気。


 額から冷や汗が垂れる。その息詰まった空気を3人は察していた。

 シュルツ、エルシャ、ジェームズはただ一点を見つめ、息をのんだ。

 血を流して倒れている男性。

 ではない。


 それは難くない怯える女人だった。



【NEXT】


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