第21話 掌握された心

 

 執事をギョロリとした目玉で見つめるミイ。

 瞬き一つないその眼光は、恐怖ほかない。


 ただ、ギョロリとした眼光に気にせず、タイル状の地に一点を見つめる執事。


「さあ・・・」

「どうした? 恐怖などないだろ?」

「あるわけないだろう?」

「それとも、本当に怖いのか?」

「そんな程度の低い冗談はやめてくれ」

「笑ってしまうだろ?」


「・・・・」


「それとももしかして、昨日のことでもを思い出しているのか?」


「・・・・」


「昨日の夜・・私と目があったはずだ」


 執事は目を見開いた


「あれは酷いんじゃないのか?」

「冷淡な瞳をしていた」

「自分でも自覚していたはずだ」

「嘘じゃない」

「お前も当事者だ」

「許されることじゃない」

「お前もそう思うだろう?」

「そう思ったから、お前は今悩んでいる」


 ミイが執事と目が合ったというのは、ミイが元ジェントルマンに襲われていた時、

 扉の隙間から冷徹な目で見ていた執事とメイド。その時にミイと目が合っていたという。


「・・・・」


「俺を見てみろ」

「見せてやる」

「昨日お前がしていた目を実は今、私はしている」

「さあ、こっちを向いてくれ」

「こっちを向き、感じ、私と同じ気持ちになってくれ」


 ミイは視線はただ一直線に執事を向けたまま、

 サバイバルナイフを差し出した。


 執事の額から滴り落ちる液体が目や口に入り、染みる。


 完全なる掌握。

 執事は落ちた。


 執事はどうしてもミイの目を見れない。それどころか、差し出してくるサバイバルナイフすら見ることが出来ない程、硬直している。


「わ、わたしは・・・」


 執事はミイの言葉に返そうとしたが、


「ハァッ・・・」


 今にも崩壊しそうな荒びれた声は一瞬だった。

 その声の主はメイドだった。


 執事はメイドになら目を合わせれると感じ、視線をメイドに移した。


 顔面蒼白のメイド。

 明らかにメイドの視線はミイの方向に向けられている。


 どうしてか分からない。何かの力が働いたのか、今ならミイの顔を拝見出来ると思い、顔を向けた。


 裂き切れそうなくらい口角を上げ、不気味な笑顔、鼻の穴から垂れる鼻水が光り、そんなことよりも、丸みを帯びた眼球がグロテスクで、もの恐ろしい。


 そんなことよりも、腕を振り子の原理の様に、サバイバルナイフが執事の腹部へスライドしてくるのが見える。


 別に関係のないこと。ここで命を落としても良いと考えていたのだから、これで終わり。終わりだ。


 サバイバルナイフが湾曲の線を辿りながら迫ってくる。


 執事は覚悟。

 目を閉じたー


「・・・・」


 鈍い音をかます。

 その光景は、メイドが覆い被さるように執事の体勢を崩し、迫り来るサバイバルナイフをメイドは掌で受けた。

 掌からの大量の出血。

 そんなことは気にせずメイドは強く問いかけた。


「あなたは死んではだめ!!」

「あなたは生きて!絶対に死んではだめ!」

「あなた程、心根の優しい鬼族はいない」


「・・・・」


 メイドは掌からサバイバルナイフを抜いた。

 更に大量の出血をするが関係ない。

 この場を終結させるため全力の表情。

 歯を噛み締めた。


「ここは私が・・・」


「・・・君には無理だ!」

「悪魔族だぞ!」


「そんなこと分かってる」

「でも、あなたが死ぬ方が重い」


 メイドは髪の毛を毛羽立たせ、全身から奇声を発したー

 額から角が伸び始めた。その長さ30㎝程に伸び、元ジェントルマンより明らかに長い。

 元々黒色だった髪色も、白髪に変わり始め、爪や目つきも伸び変わった。


 その変身をミイは腰に手を当てながら、気軽そうに見ていた。


「ほう・・・」

「鬼の覚醒ってやつか・・!?」


 メイドは髪の毛を波立たせた。


「ここは私が時間を作る」



【NEXT】



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