第20話 波旬の悪魔

 

「・・・・」


 真っ暗。

 隙間からマイナスの光が。


 意識が復活したー


 いつもと違うこの気持ち。

 気持ちがとても良い。劣る気がしない。


 こんな惨めな私が感じるこの力・・本当に私なのか?

 別に性格が変わったわけじゃない。

 変わったとすれば、

 頭の中は今、目の前にいる二次消費者をどうやって殺ろうか。

 ただ殺戮を繰り返すことで頭の中がいっぱいだ。

 そして、ただ無神経に行動するのみ。


 こいつらは、不毛。


 今からこいつらをどのくらい残酷に殺してやろうか・・・

 心臓を一突き。

 首を刎ねる。

 腕から順に飛ばす。


 多種多彩な殺し方があるが、一体どの殺り方が一番良いのか、

 それが悩み所だ。


 ギロッとでた眼球。舐め回す目に舌。

 不快ー


 そんなにこの身体が愛おしいのかと疑問に、自分に問うがもちろん返答はない。


 醜穢ー


 そろそろこいつらも楽しんだ所だろうか。

 少しくらい、死へのカウントダウンを伸ばしてやろうと考えていた。

 そんな優しさも少しはあると解釈していい。


 だが、少し脅かすとしよう。

 こいつらがどういう表情をするのか見てみたくなった。


「バサッ」


 厚い音が部屋中に響いたー

 羽を勢いよく広げる音だ。

 身体を覆えるほどの大きな飛膜は黒く艶がある。

 まるで蝙蝠コウモリのような可憐な飛膜が、背中の肩甲骨から伸びている。


 結膜と瞳孔の着色がテレコ。

 結膜が黒。瞳孔が白。


 また、目尻から伸びる黒い着色が、まるでアイラインのメイクの様に伸びている。


 ミイは2度 羽を羽ばたくと、目一杯羽を広げた。

 凄まじい風の勢いだ。


 鬼はその飛膜を確認すると、怯えたように手を離した。


 他の執事やメイドも怯えだした。


「・・・!!」


 声も出ない。

 それもそのはずだ。生態ピラミッドで表すと鬼より悪魔の方が上級だ。

 地位も名声も力も上回るに必然。

 鬼もミイも分かっていることだ。

 人間で表すと社会的弱者と社会的権力者の差だろう。


「貴様ら・・・」


 ミイは言葉を交わすとした瞬間、食い気味に鬼たちは跪いた。


 身体中が震えているのが分かる


「・・もうしわけ・・ありません・・・」

「し、しらなかったもので・・・」


「選べ、自害か殺されるか奴隷か」


「・・・・」


 静寂が続いたー


「選べ!!」


 静寂の中の大声に驚愕した。


 元ジェントルマンは小さく言葉で


「ど、どれい・・・」


 元ジェントルマンは渋々奴隷を選択しようとしていた。

 奴隷は下鬼より格下の権力。

 最下部がそれ以上無いため、権能することもできない。人間と同じ立場。

 それ以下の立場になりうるかもしれないということ。

 これから何をされても死ぬまで、ただ言うことを聞き、一生を遂げる自由の無い人生。

 それは嫌になるのも無理は無い。

 ただ、死という恐怖には変えられない。


 だが、

 元ジェントルマンはこの3つの選択肢の中から奴隷を選択しようとしていたが、

 その話に割って入るように、執事が言葉を交わした。


「殺してください」


 執事は真剣な表情だった。


 元ジェントルマンとメイドは執事に目を丸くして見つめた。

 突如のこと過ぎて、慌てて元ジェントルマンとメイドは顔を横に振った。


「・・そうか」


「違うんです。こいつは気が動転してて自分で何言っているか分からなくなっているんです」


「お前に問う!なぜ奴隷を選ばず、死を選ぶ!?」


「奴隷になるくらいなら死んだ方がマシです!」

「私には守る者も守られる者もありません!」

「理不尽な不当。権力を貪り卑劣な行為をしたことは確か」

「この方の行いは間違っておりいます」

「死をもって私も償います」


 元ジェントルマンは血の気が引いた。

 瞳孔の拡張、立毛、血圧と心拍の急上昇、冷や汗。恐怖時に出る症状が悉く発生した。


 部下の裏切り、死の恐怖。これほど同時に2つの恐怖が、元ジェントルマンの心をズタズタにしていく。


「お前!何を言ってやがる!」

「俺の言うことを聞け!」

「殺されるくらいなら奴隷の方がマシだ!」


「いくら上級のあなたでもこればかりは言うことは聞けません」


 元ジェントルマンと執事の論争が始まった。


 ミイはそのやり取りを見つめ、終わるのをひたすら待っていた。

 数十秒待った所で、ミイは元ジェントルマンに指を指した。


「見せしめだ」

「お前、こいつを殺せ!」


 元ジェントルマン、執事、メイドは驚いた。

 そして焦った。


 逃げようとする元ジェントルマンは崩れ落ちそうな足取りで、扉まで駆けるが、ミイの飛膜が細長く変形し、元ジェントルマンの両手足を縛り、吊るし上げた。


 騒ぐ口が飛膜を巻く。


「これなら殺しやすいだろ!?」

「内蔵を断ち切れ」

「苦しみ絶えるだろう」


 ミイと執事は視線がぶつかったー



 ※ ※ ※



 執事はミイの瞳に吸い込まれるように、幻視が見え始めた。


 執事の眼前にサバイバルナイフを持った自分に、飛膜で吊るされた元ジェントルマン。

 その左右で見るミイとメイド。


「おれ・・・」


 眼前にいる執事は、元ジェントルマンの腹部にサバイバルナイフを突き刺した。


 抵抗するが抵抗できない程、強く占められた手足に、

 元ジェントルマンは吐血し、大声を出し苦しみ始めた。


 さらに、執事はサバイバルナイフをマイナス方向へスライドさせた。


 サバイバルナイフで抉り、内蔵を引き出した。



 ※ ※ ※



 執事は現実に戻ると、立ち眩んだ。


「さあ、これが未来だ」

「捌け」


「・・・・」


 ショッキングすぎる映像だ。固まって動けない執事。


「どうした、こいつの行いは間違っているのだろう!?」

「お前も少なからず不満を持っていたはずだ」


「・・・・」


 執事の汗が止まらない。


「本来なら私が殺すところ、お前に譲ってやろうというのだ」

「憎いだろう。権力にまたがったクズに支配される身体に心」

「お前はそれでもいいのか? 自由を持ち、生きたいだろう?」

「今じゃ、奴隷同然だ」


「・・・・」


 顔の至近距離にミイのギロリとした丸い目が、執事を凝視。


「こいつのようなやつは、生かしてはおけない」



【NEXT】


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