第16話 崩壊と宿痾

 

 サイレント。

 周囲の音が聞こえないー

 頭上は壊れいく城。瓦礫が落下してきている。転がる残骸。

 負傷した仲間。


 3人は大きな口を開けて何かを叫んでいる。


 自身の身体からは大量の出血。

 普通じゃ生きている訳が無い。

 静代の痛みに取って代われば何ともない。


 身体が一歩も動かない。脱力感。

 疲弊ー

 やり尽くした。


 黒炎は消え去り、単なる刀剣に戻り、柄を手から離し地へ落とした。

 無音ー


 まるで周囲の音が掻き消すされているように聞こえない。

 これはなんなんだ?

 ここ一帯の音が消えているのか?

 いや、俺だけだ。


 再び右腕を確認した。

 純黒に包まれる腕。

 黒く朽ちて壊死したように、ただぶら下がる右腕。

 力の後遺症とでも言うのか?


 頭上を覆う大きな石巌ー

 工に向けて落下してくる。


 躱す力がまるで無い。

 死ぬのか・・?


「ドスーン!!」


 地が揺れた。


 工は仰向けで横たわっていた。


 ベコラスが何かを大声で愬えているが聞こえない。


「(そうか、間一髪でベコラスが・・・)」

「(助かった・・・でももう身体が動かねーんだ)」

「(どうしようもない・・・)」

「(すまねー)」


 工はこの先の生きることを諦めるように、瞼を閉じたー


「パシンッ!!」


 工の左頬に痛みを感じた。

 その瞬間、周囲の音が耳に伝わってきた。


 崩落音。仲間の声。燃え盛る炎。


「工! 起きろ!逃げるぞ!」

「ここは崩れる!」


「身体が動かねーんだ・・」


「シュテーゲン! 工を担いで逃げるぞ!」


 シュテーゲンは頷くと自身の力を発揮した。

 人獣化ー


 シュテーゲンの全身に白銀の体毛が生え始めた。

 毛羽立つ鬣。長く鋭い爪。伸びる口。耳。琥珀色の瞳。低い声。


「工を貸せ」


 人獣化したシュテーゲンは工を肩へ担いだ。


「行くぞ」


 3人は崩落する岩を躱しながら出口まで駆け出したー



 ※ ※ ※


 雨模様ー

 帰路と中の城の外部。

 死んだはずの操られていたサムライがゆっくりと皆同じ進路へ歩いていた。


 サムライが3人を確認すると、襲いかかって来た。


 3人は疑問に思う。

 なぜ能力者は死んだのに能力が続いているのか?


 人獣化したシュテーゲンは地面を抉り取り、細かい岩を複数いるサムライへ飛ばした。

 サムライの身体は壊死していたこともあり、簡単に身体が破壊され、肉片となる。


 ベコラスとスアレスも共に刀剣で対応した。


「少し迂回して戻るぞ」

「分からないが、サムライは皆同じ方角へ進軍している」


「敵は倒したはずだろう!?」


「分からない・・・」


「死後も発揮する能力」

「だとしたらヤバいな」

「進軍方向は粗方予想がつく」


 そして再び駆け出した。



 ※ ※ ※



 〈帝都・近郊の村〉


 土砂降りの雨。

 地面が雨水で冠水。

 雨水に滲む血液。


 地に落ちた男女の遺体。


 1人の女性は微かに意識があるが、他3人は絶命。


 微かに息のある女性は腹部が抉り取られ横たわっている。

 吐血ー

 涙なのか!? 目先から溢れる水滴が女性の感情を表している。


 その傍らで立ち尽くしている男がー


 逆光で顔立ちがよく見えないが、血液の付いた刀剣を手に。

 明らかにこの男が4人をやったであろう。

 男はまだ微かに息のある女性に一瞥するとその場から立ち去った。


 4人はメラース団員。

 その1人はミイだったー


【NEXT】


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