第13話 力の吸収

 

 地に朽ち果てる下半身の残骸。


 警戒する嘴の面。


 殺気を放つ工。


「(・・やられた・・これからどうする? どうすればいい? 逃げるか?)」


「ここから逃げれると考えるな・・」


「!!」


 怒りが沸点に達する工は言った。


「どのみちお前は殺るが、少し時間をやる」

「いや・・生き残る術を教えてやる」


「(こいつ、どの口で言ってやがる!)」


 生き残った嘴の面は、面の端から微かに出る皮膚から血管が浮き出る。


「別にお前に生死を問われる俺ではないが聞いといてやる」

「どんな術がある?」


「隆景と静代を生き返らせろ!今すぐにだ!」

「それも生気のある純粋な人間へ」


「(こいつ俺の能力を把握している?)」

「(死んだ者はただの死人。そこから元に戻せ!? それは叶わぬ願い)」


 嘴の面は強気のようだ。


「いいだろう! ただし条件がある」


「なんだ!?」


「俺がその2人を治したところで、俺が生きて帰れる保証がない」


「・・・」


「スアレス! 俺の刀を!」


 スアレスは工の刀を投げ渡した。

 工は刀を鞘から抜き、純黒の刃を手で撫でた。


「・・・ならこちらも問う。下でサムライと応戦したが、皆この世に魂がなく抜け殻だった。ただ死人が無茶苦茶に目の前の敵を排除する人形。痛みすら感じぬその身体は、もはや人間ですら無い。それをお前は人間と言えるのか? お前が隆景と静代を純粋で純白の元の人間に戻す保証も無いだろう」


「なっ・・・」


「互いに保証などないんだよ・・・」

「どちらにせよ、お前が先行だ」


「・・・」


「普通に考えてみろ。お前が2人を治し、俺がお前を逃がす」

「お前を逃がして、2人を逃がす」

「逆は無いだろう!? 後者だと話が矛盾するだろう」

「お前は一度治せるとニュアンスは違えどそう発言した」

「だから、とっとと治せ! 話はそれからだ」


「チッ・・・」


 嘴の面は構えるー


「何だその構えは? つまり治せないと言う事だな!?」


「・・・・」


「・・交渉決裂だ」


 工は嘴の面へ下半身の死体を蹴り飛ばした。


「なんだ!」


 工は純黒の刀剣を放った。


 残骸の下半身を貫通し、面の肩に入るが擦り傷。


「ハッハー 俺の能力で元の姿に戻すなど不可能!!」

「そして、死んだこいつも俺の人形!」

「さあ味わって死ね! ここからが俺のルームだ!」


 下半身の残骸から黒炎が舞い、工を囲う。

 黒炎の渦ー


 高熱過ぎる温度に工の皮膚が焼け始める。

 黒炎が火柱になり、工を何度も襲う。


 スアレスら3人が工の名前を叫ぶが応答が無い。

 辺りが炎の海。3人が近づけるはずが無い。


「さて、ずらかる前にひと仕事」

「全てのサムライよ! 進軍だ!」



 〈城・周辺〉

 城下や城周辺に放浪するサムライが一斉に同じ方向に向きを変えた。

 皆生気すら感じないその身体を重たそうに。

 瘴気を発しながら。

 足がないサムライは手を使い歩き、手が無いサムライは口で刀を拾い武具を、それぞれ一直線へ進み始めた。

 歩く速度は皆遅い。



 〈城・部屋〉


 渦巻く黒炎に


「そろそろ灰にでもなっている頃か?」


 黒炎の斬撃ー

 城の天井を破壊した。


 渦巻く黒炎が静まり返って行く。


 全身に軽度の火傷を負っているがなんおその。

 渦巻いていた黒炎と工の刀剣が比例。

 黒炎刀。


 刀の刃、鍔、柄、その全てが燃え盛る黒炎。

 工自身熱を感じない


「(黒炎が刀に纏っている!)」


「よくわからない、俺に取り付くこの力」

「順応していく」



【NEXT】


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