第11話 脱獄への選択

 

 輝く光が弱まる頃、貴虎を合わせた5人に360度全方位から刀が突きつけられていた。

 こちらがこの大きな扉から、出現してくることを予測していたように、待ち構えていたのだ。

 なぜだかわからない。


 周囲は白銀の世界。

 シンシンと降り積もる雪。


 刀を突きつけた人物は、サムライだった。

 貴虎とは違う。

 見慣れないさかやきが目立つ頭に、着物姿。


 貴虎が着ていた鎧とはまた違う。

 こんな豪雪にそんな薄着はマッチしていないだろう。


 突きつけられた刀を確認した貴虎は、慌てて理由も聞かず言葉を交わした。


「やめるのでござる!」

「この者たちは我らの国を助けてくれるのだ!」


 そんな言葉など通じない。

 全方位から突きつけられた刀は、貴虎にも及んでいた。


「どういう事でござる!」

「我の言う事が聞けぬのか?」


 貴虎の言葉に1人のサムライが近寄ってきた。

 両サイドを借り上げた現代風の髪型に着物姿の男。

 他のサムライとは違う気配がする。


隆景たかかげ!」


「貴虎様、申し訳ありません。いくらあなた様のお言葉でも、私たちはあなた方を監獄へ連行致します」


「なんじゃと! どういうことじゃ!」

「そんなこと我が許さぬ!」


 理由が全く分からない5人は不満に思い、突きつけられた刀を軽々交わし、刀剣をそれぞれ構えた。


 サムライたちは、10mほど下がり距離を取った。

 そして、相手の様子を窺う。


 するとスアレスは、


「何がなんだか分からないが、あらかた予想はつく。俺がやる」


 自信たっぷりに言い放った。


 全てを断ち切るために生まれたスアレスの大剣は一片の乱れなし。

 スアレスは咆哮しながら、一直線にマイナス方向へ一振り。

 あまりの太刀筋に金属音が鳴り響く。


 だが、10mも離れる敵に、大剣の刃は届きもしない。


 だが、サムライたちの胸から血が噴き出す。

 素早く浅く、致命傷に至らない程度の傷。


 隆景は膝をついたー


「どういうことだ!?」


「詳しくは言わんが、俺の能力でお前らを切った」


 力の差を目の当たりにした隆影は法螺貝吹いたー


 法螺貝が響いた10秒後、続々と集まる増援のサムライ。

 応戦に来てしまった。


 兵力ならたった5人、確実に勝てる自信があったが、サムライと戦いにきた訳でもない5人は、威嚇したスアレスの合図で刀を下げ、大人しく監獄へ連行する事に承諾した。

 仲間に裏切られた貴虎は、何が何なのか全く分からない。目頭から涙だけが寂しくこぼれ落ちたー



 《ルーベルト・スアレス プロフィール》

 ルーベルト・スアレス(27)ランク86位

 帝都直属支配下にあるラン集(ランキング集団)

 所属ラン集:メラース 

 役割:戦闘部員 戦陣攻撃

 能力:エクタシス・・・攻撃範囲の拡張

 座右の銘:パッツパツのTシャツは気にするな



 〈監獄〉

 薄暗く湿っ切った部屋。

 少量の蝋が火を焚き周囲を照らす中、手首を錠で拘束されている4人が監獄へ雑に放り投げられた。

 もちろん身ぐるみを剥がされ、刀剣など持っていない。


 貴虎はまた別の場所。反逆罪の罪で数時間後処刑されるという段取りに進められていた。


 心配性のベコラスは怯えていた。


「これからどうすんだよ! 絶対殺されるぞ」

「貴虎も殺されて、次は俺らだぞ!」

「首を切り落とされて見せしめにされて、獣の餌にでもなるんだ!」


「少し黙れ」


「黙ってられるかって! 相手はサムライだぞ!」

「俺まだ結婚もしてねーんだぞ! こんな所で死にたくねー!」


「敵はサムライじゃねーだろ!」


 ベコラスが混乱する中、監獄の奥から声が聞こえた。


「サムライはあなた方の敵ではございません」


 4人は視線を奥に向けると、現れたのは煌びやかな着物に透き通った声。


 ベコラスの目が一瞬にしてハート化した。

 一目惚れ。


 一番落ち着きのある工は言った。


「あなたは?」


「私は・・・」


 着物姿の女性の発言に割って入るようにベコラスは言った。


「初めまして姫君! ファン・ベコラスと申します」

「私はあなたに恋を致しました。どうか私とお付き合いの方を・・・」


 スアレスは場違いの行動をしたベコラスの絞めた。


 気を取り直し、女性は言った。


「私はサムライを統一致しております。将軍 静代と申します」


「将軍!?」

「女性将軍!?」


「あら、あなた方お失礼ですね。男性社会が常識ですからとでも、お思いですか?」


「い、いえ」


「冗談ですよ」

「ところでなぜあなた方のような下界の御人が、ここサムライの国へ?」


 工は事細かく、ここまでの経緯を全て正直に話した。


 ※ ※ ※


「そういうことでしたか・・・」

「貴虎が処刑・・・」


「静代さん なぜ将軍のあなたが幽閉されているんです?」


 静代は静かに口を開いた。


「数時間前の事です。炎を操る人物と死人を操る人物がこの国へ攻め込んできたのです。既に手下のサムライが操られ、我らは甚大な被害を浴びました。それよりも、炎を操る人物は城を焼き、民を殺し、私の父を殺害しました。父は最後、主権を私に譲ると絶命致しました。私は父が死んだところで悲しくなどはありません。私は泣いた事が無いのですから、ただ、主権を私が握ってる限り、私がこの国を救わないとなりません。ですが、幽閉されている今、私にはどうする事も出来ない。弟の貴虎も殺されるとなれば、この国もおしまいです」


「やはりか、そう言う事だろうと思いました。隆景という男が操作されていたのも合点が付く」


「おそらく隆景は、私が人質に取られている事を見込んであなたたちを監獄へ幽閉したのでしょう」

「サムライの国は元来鎖国を行ってきた国です。外部から助けなど来る事も無いでしょう。ましてやあなた方もこのような状況だと・・・」


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ!」

「俺らはそう簡単には死にませんし、元々この国に来た理由は、炎と死人を操る人物とやらをぶちのめす為に来たのですから」


「言葉では軽々しく言いますが、この状況のあなた方では不可能です・・・」


「静代さんは、もし仮に俺がこの国を救ったとしましょう。その場合、代価を頂けますか?」


「まあ、それは外部の人間とはいえ、国を救った程の方であれば・・・」


「では、俺がこの国を救います」


「どういうことです!?」

「この状況をお分かりですか・・・?」


 4人は自身の力で錠を破壊した。


「あなたたち初めから!」


「内部へ侵入するにはこれしか無いと思ったんでね」



 ※ ※ ※



 〈部屋〉

 畳張りの大広間に嘴の面が2人。

 貴虎を踏みつけていた。

 1人は羽衣に隠れているが、右腕だけがやけに太い。

 もう1人は、身長120cmほどの小さな身体。

 その横1列に正座するサムライ幹部。


 サムライ幹部の雰囲気がおかしい。

 よだれを垂らし、白目を向くサムライや、両腕がないサムライなど、

 皆、死人のようだ。


「ここももう終わりっすね」

「ランクは上がったかねええ?」


 嘴の面の2人は、互いの身体を見て回った。

 右腕が異常に太い嘴の面の腕には72の数字

 身長120cmの嘴の面には63の数字が


 順位が上がった事を確認すると、2人は少しばかり喜んだ。


「こんな事、絶対に許されぬ!」

「よくも同胞を!」


 2人の嘴の面は何度も貴虎を踏みつけた。


 右腕が異常に太い嘴の面は刀を鞘から抜いた。


「御託を並べるなねええ!」

「何が許されないねええ?」

「ランクを上げる為に国を滅ぼすこと、それは鎖国をしているお前らには教えられてないだろうな!」

「これは歴とした仕事なんだよねええ!」

「ランクを上げて対価を得る。これのどこがおかしいねええ? どこの国も同じなんだよねええ!」

「いいか? 今からお前の首をこの刀で切り落とすねええ」

「さあ、怯えろ。怯えて泣き叫べねええ」


言葉の語尾に癖がある、右腕が異常に太い嘴の面はしゃべり続ける。


「別に怖くわないで候。これも武士の心得でござる!」

「切る事は進めないで候」


「いや、無理だねええ!」

「切るねええ。今から首を切り落とすねええ」


「いい加減にするで候」


「ズバッ・・・」


 畳に夥しい地が吹き付いた。


「ボトッ・・・」


 貴虎の首が畳を転がっていくー


 貴虎の顔は怯えていたー


【NEXT】

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