第9話 新たな出会い

 


 〈草原〉

 風が吹き込む雨模様。

 どす黒い雲が4人に緊迫感を与えるー

 草原を駆け走るオオカミの背に、村へと向う4人。


 卓越した肉体の持ち主、坊主のスアレスは、自身の身長183cmとほぼ同じ長さで幅広の大剣を背に。

 赤髪のベコラスは両刃両手剣を腰に。

 白銀髪シュテーゲンは腰に2丁のダガーナイフ。

 工はジャブラーとの戦い時に所持していた黒刀を腰に。


「村には、あとどれくらいで着くんだ?」


「20分ほどだ」


 スアレスは天気の具合を確認すると、嫌な予感を察したように発した。


「降ってきそうだ・・」

「村にまだ被害が出たという情報は無いが、急いだほうがいいな」


 シュテーゲンの乗っているオオカミが、鼻を利かせる。


「ここから20キロ前方、焦げ臭い匂いがするみたいだ」


「村の場所とほぼ同じ位置・・」

「急ぐぞ!」


 4匹のオオカミは、スピードを上げた。



 ※ ※ ※



 〈村〉

 崩れ落ち、焼けこげた木材。

 散らばる草木灰。

 香る臭気。

 焼き払われた村だった。


 4人はやって来ると、周囲を見渡す。

 一番最初にベコラスが口を開いた。


「ひでー 家一つ残ってねー」

「誰がこんな事を・・」


「遅かったか・・・」


 全てが焼き払われ、注意深く見ないと分からなかったが、人間の死体が複数転がっている。

 黒く焼けこげ、形だけでみると人間という事が分かる。

 手を差し伸べ、助けを求める死人。子供を囲う様に抱く死人。

 残酷かつ凄惨。


 シュテーゲンは焼かれた木材を手に取り、匂いを嗅いだ。


「1時間ほど前・・ってところか・・」


「一体誰が・・・」


 1時間前、この場所で一体何が起こり、誰がこんな凄惨な事を起こしたのか考えたが、思え浮かぶ者はいない。


「用心しておけ、たった1時間前だ」


 焦げ臭い匂いが充満している場所で、オオカミの嗅覚はあまり当てにならない。用心深くなる4人。


「・・・ガタン」


 4人は物音がする方角に首を向けた。


 焼き焦げた木材、草木灰の下から起き上がる物体。

 木材や灰を払いながら、ゆっくり立ち上がる。どうやら人間の様に窺える。


 スアレスは、立ち上がる人間に驚きを見せた。


 身体に身につけている赤や黄色の鎧に、4人に構える日本刀。金の角が伸びた兜、面。

 予想するに、


「サムライだ・・!」


 この世界にサムライという者が存在するのか!?

 意外性のある出現に、工は興味を持った。


 サムライは、見るからに疲弊、傷ついた身体、戦う意力は伝わるが、戦闘力において微塵クラス。

 瀕死状態のサムライが、4人に刀を突きつけた。


「待て待て! 俺らは戦う気はない!」


 スアレスはサムライを制止させようと試みるが、言うことをまるで聞かない。


「よくも我ら同胞を・・・!」

「・・・バタン」


 サムライは力の限り言葉に出すと、力つきたように地面に倒れ込んだー



 ※ ※ ※ 



 防具を取り上げられ、地に仰向けのサムライ。

 覗き込む4人。


 サムライは王道のさかやきではなく、くせ毛の長髪を後ろで束ねるスタイル。

 織田信福を思わせる髪型のサムライは、見る限りから判断すると、まだ若く未熟に感じ取れる。


 すると、スアレスは話した。


 独立国家。鎖国の連鎖。

 サムライは他国との間にビッシリと境界線を引き、何者も寄せ付けない全くの多種族。

 戦闘人格は攻撃的。一度刀を交えると殺されるか相打ちか、どちらかを選択しなければならない程の戦闘部族。

 敗戦は許されない、他人に殺されるなら自害を考える人柄。


 4人は、サムライから情報を聞き出す事など無謀に近い話をスアレスから聞いたため、こういう時、ミイの能力「ボワイユリスム」があれば、事件の真相が丸分かりなのに、全く以っていい能力だと思ってしまった4人。


 すると、空気を読まないベコラスは、


「死んだか?」


 サムライは目を覚ました。

 今、自身がどういう状況なのか一瞬にして脳みそを絞った。


 囲まれているサムライは、4人を突き飛ばし、距離を取った。


「刀を返すでござる!!」


 未だに勘違いをしているサムライに、スアレスは説明に入る。


「だから俺らの話を聞けって!」

「何があったか俺らにも分からない。だから言えるのは、この村を荒らしたのは俺らじゃないし、俺らもお前の話を聞かせて欲しい」


 説得による説得ー


「恍けるでない!」


「貴様らからはあやつと同じ力を感じるでござる」

「仲間なのは必然。我がここで貴様らを討ち取れなかろうが、我の朋輩が貴様らの首を国へ持ち帰ろう」


「たくっ・・・」


 おもむろに工はサムライに前進した。


「刀を返してやってくれ」


「いや待て」


「頼む・・・」


 スアレスは防具をサムライに投げつけた。


 サムライは刀を手にすると。鞘から抜き、構える。


「傷はまだ癒えていない。少しでも身体を休めた方がいい」


「黙れ!我の心配など入らぬ! 貴様らの首を国へ持って帰り、民の見せしめにしてやるでござる!」


 見兼ねたベコラスは


「あのサムライダメだ。もう殺しちゃおうぜ」


「ダメだ!」


 スアレスとシュテーゲンはベコラスに軽蔑の眼差し。


 工はゆっくりと刀を鞘から抜いたー


「話も碌に聞けないバカサムライが・・・」


「工! あいつ何をするつもりだ!?」


 ベコラスは焦っていた。


「おれ・・冗談で言ったんだけど!」


「バサッ!!」


 工は自身の黒刀で左腕を切り落とした。


 心の中で叫び、痛みに耐える姿。


「何ゆえ!」


 大量の出血ー


 サムライは驚愕ー


 以前の戦闘時同様に、工の目付きが変わっていた。


 痛みに耐えるその口調から、


「これでも信じねーのかよ! バカサムライ!」

「この残酷な地に俺はキレてんだ! 貴様の話を聞かせろ!」

「お前の助けてやろうと言っているんだ」


 サムライは、感銘を受けると共に共感を得ると、ゆっくり刀を収め、話を聞く事に納得し戦闘態勢を解除に至った。



【NEXT】


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