第8話 冒険の原初
夜ー
周囲は真っ暗。
「ホーホー」と、鳥の鳴き声が聞こえる中、2人の男の声がヒソヒソと聞こえる。
「知ってるか。ここがベストポジションでさあ」
「知らねーよ! お前、いつもこんな事してんのか?」
「今日は特別。大バーゲンだぞ!」
「はあ!? 絶対ヤベーって」
「大丈夫だってー。すんなりついてきたくせに」
「良いもの見せてやるって言うからだろ!」
「バレたらどうなるか!」
「何言ってんだ。帝都で恒例の行事だぞ!」
「今の絶対嘘だよな!なあ!」
2人が言い合いになっていると、パッと突然、所々に置いてある7つのスタンド照明が光った。
「ガラガラガラー」と扉をスライドさせる音とともに、7名の女性が入ってきた。
ここは女風呂だー
女風呂に侵入していたのは、工とベコラス。
湯船のすぐ傍らに体育座りでいた。
2人はなぜか全裸で、その理由は、バレてしまった場合、のぞきではなく、俺らもただお風呂に入りたかっただけという口実を作る為であった。
工は、風呂に連れてこられた際、ベコラスにはいけない事だと言い放っていたが、内心少しやってみたい気分があったため、渋々付いていったのだった。
周囲を竹林が囲み、石積みされた露天風呂。
独立化された洗い場が5つあり、7人の内5人が洗い場へ、2人は湯船へ。
7人の女性は工とベコラスには、全く気づいていない
それもそのはずだ、何故ならベコラスの能力、透明化を駆使していたからだ。
「来た来た!」
工は湯船へ向かってくる2人の女性に見覚えがあった。
1人は、長い黒髪をバンスクリップでまとめ、手に持ったフェイスタオルで胸元を隠す。
もう1人は、セミロングの茶髪の女性。こちらも手に持ったフェイスタオルで胸元を隠す。
「(って、ミイとアデリナじゃねーか!!)」
2人は頬を赤くしながら、ミイとアデリナをじっと見つめていたー
すると、体育座りしている2人のちょうど目の前にミイとアデリナが到着ー
湯船に入ると、石の淵にその大きく綺麗な胸を載せ、誘惑するような姿勢にー
工とアデリナは興奮していた。
工は内心、バレたら徒では済まないぞと思っていたが、透明化の能力を過信。
透明化している2人の目の前で、ミイとアデリナは会話。
「姫様は・・・その・・工のこと、どう思っているんですか? 本当に・・・」
「・・・本気です! 工ちゃんは私がもらいます!」
「工ちゃん!?」
「ええ!工ちゃんです!」
「工ちゃんっていつからそんな呼び方に!?」
ミイは顔が笑っていない。
「今決めましたわ!」
勝ち誇った態度でミイを愚弄。
「なっ・・」
「あなたも工ちゃんのこと好きなのですか!?」
「姫様なぜそのようなご冗談を・・・!!」
風呂の影響なのか、ミイは頬は赤かったー
工は2人の会話を聞いて、アデリナの本当の心情を聞いたところで、心がホッとした気持ちになった。
「ポタッポタッ」
と雫が地に垂れ落ちる音。
ミイとアデリナは、地に赤い液体が落ちている事を確認。
覗き込む。
「何これ?」
「何でしょう?」
また、何も無い空気中から赤い液体が水滴の様に、垂れ落ちていることを確認。
覗き込む。
ミルククラウンならぬ、ブラッドクラウンのように美しくー
工は、異変に気づいた。ミイとベコラスがこちらを覗き込んでいる事にー
「(あれ、様子がおかしい・・・)」
工はベコラスに視線を向けると、ベコラスは鼻血を垂らしていた。あまりの刺激物に目を回していたのだ。
「えっ?これ透明化してるんじゃないの?」と思いながら、身を潜めるー
「工・・わりー・・俺もうだめだ・・・」
ベコラスは目を回して後ろに倒れたー
すると、2人の透明化が足先から消えていくー
ミイとアデリナの眼前には全裸の工とベコラス。
工とミイの目が合うー
時間が止まったー
「・・・・・」
「・・・・・や、やあ、ミイ・・おつかれさま・・・」
「なっ!」
眉間にシワを寄せるミイー
「工ちゃん!! 私に会いに来たのですね!」
工に抱きつくアデリナー
アデリナの胸が工の身体に押し当たる。
工はデレデレ。
「こんな所まで来てくださるなんて、工ちゃんも大胆♡」
「いや俺は・・・」
工は殺気を感じたー
視線をミイに向けると怒りの形相を工へ一直線。
「まっ・・待てって・・」
「コカーーーン!」
生身の工の股間へ蹴りを加えたー
※ ※ ※
翌日ー
晴天。日差しが差し込む中庭に、20人の黒の集団に20匹のオオカミ。
リーダー的に先頭へ立ち、今後の任務について話しているミイがいる。
皆、個々身を守る武器は違えど、メラースのチームカラーでもある黒を基調とした服装。
工とベコラスの身体にはテーピングが複数巻いてあった。
「工どうしたその傷は?」
テーピングを見て、黒のパッツパツのTシャツを着たスアレスが問いかけた。
「まあ、ちょっと昨日色々会ってな・・・ハッハハハ・・」
笑い話に持っていった工であったが、実はのぞきをした2人は、アデリナを除く、6人の女性からしばかれたのだ。
「つい最近、近郊で村が襲われ、村人が殺害された。今回の任務は帝都外周辺にある村へ行き、偵察および、敵に出くわした場合、殲滅する任務だ。4人1チームで任務を遂行していく」
工が手を挙げ、質問の許可を問うた。
「なんだ?のぞき魔」
ミイの表情が曇る。
周囲は「のぞき魔? あの帝都で今話題?」などの声が響くが、
団員に睨みを利かし、自分がのぞき魔で無い事を主張した工。
「4人ということは、俺は誰とチームを組めば?」
「工はベコラス、スアレス、シュテーゲンだ!」
ベコラス、スアレス、シュテーゲンがそれぞれ工に挨拶する。
工はこんな心強い仲間がいれば、任務など楽勝。過信だ。
「では、任務開始だ!」
皆、チームごとに別れ、個々にオオカミへ、乗り駆け出した。
移動手段はシュテーゲンのオオカミのようだ。
「じゃあ俺たちも行くか! 俺たちは南東にある村へ行く」
スアレスが工に声を掛けると、オオカミへ乗り、駆け出す。
皆が駆け出した事を確認すると、ミイも駆け出し、任務という冒険が始まったー
《ファン・ベコラス プロフィール》
ファン・ベコラス(20)ランク外
帝都直属支配下にあるラン集(ランキング集団)
所属ラン集:メラース
役割:諜報戦闘部員 偵察や情報収集や戦陣攻撃
能力:バニッシュ・・・自分自身や物や人間を透明化
座右の銘:盗見命
【NEXT】
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