第7話 祝福と試練

 

 《シュバルミール・アデリナ プロフィール 》

 シュバルミール・アデリナ(19)ランク外

 帝都 現国王9代 第三王女

 所属ラン集:なし

 役割:プリンセス

 能力:なし

 座右の銘:愛しの王子様 あなたの御側へ




「あの・・・工さん・・・」

「抱きしめても宜しいですか・・・?」


 アデリナは静かにそう言ったー


「へ・・・」


 工は、今まで体験した事がない状況に、頭の中が真っ白になった。

 どういう原理があり、どういう理由で、その発言に至ったのか理解不能。

 だが、内心嬉しい反面もあったが、理由も分からないことには、抱きしめてもらうには行かないと頭をよぎった。


「抱きしめるって・・・どういう意味?」


 アデリナは正気を取り戻したように心を落ち着かせた。


「ごめんなさい・・・」


 訳ありの女性という事を感じ取った工は、少し冷静になった。


「・・・アデリナ、もし良かったら話を聞かせてくれ」


 アデリナは感情を露にさせながら、悲しげに伝った。


「私は2年前、隣国の王子 アルカセル様と婚約しておりました。ですがある日、盗賊集団に襲われたアルカセル様は、同行していた兵士の命を守るため、応戦しましたが、背後から刃で貫かれ、お亡くなりになされました」


 アデリナは大粒の涙をこぼしながら、工に訴えかけるように話す。


「アルカセル様が亡くなり、私はその間ずっと1人で悲しみにくれておりました」

「父や母も心配をかけてくれて、何とか生きる事は出来ましたが、いつも夜になると、アルカセル様の事を毎晩のように思い出し、このまま私も死んだら楽になれるのだろうと考えておりました」


 工はこんなベタな事が、この世界に起こっている事実を聞き、やはり夢でも何でもなく、異世界に転移された事を再度認識した。


「ですが2日前、城内のモニターからコロシアムの映像を偶然見ていた時に、工さんが戦っていらっしゃいました」

「工さんはあんなにボロボロになりながらも、最後まで諦めないその努力精神に私は勇気づけられ、あなたのようになりたいと思いました」

「そして・・・あなたに恋をしてしまったと・・・」


 アデリナは自分の過去の生い立ちを話し始めると、いつしか頬を赤くして、瞳をキラキラさせながら、工に視線を向けた。


 工は可愛らしい表情と火照った顔に、ドキドキしてしまった。

 可愛い女性が目の前で泣いているのに、男がメソメソしてられないと思った工は、少し照れながらも、こちらもベタな回答をしようとした。


「今出会って、俺も好きです。にはならないけど、俺で良ければ力になるぜ」


「本当ですか!?」


「ああ!」


 アデリナは、工の言葉にキュンとしたのか、思いっきり工に抱きつき胸を押しつけた。

 工の胸とアデリナの胸が密着し、工はデレデレした顔で微笑んだー


「ガチャン」


 工とアデリナが密着密度が濃い中、いきなり扉が開いたー


「姫様朝ですよー」


 唖然ー

 ミイがアデリナを起こしに来たのであった。

 これは習慣化されており、アデリナを守るのもミイの役目の一部だったからだ。


 ミイは開いた口が塞がらないー

 自分で開いた口を何度も塞ごうとしたが、それでも塞がらない。


 工はしまったと言わんばかりに、大量の汗が流れ出た。


 逆にアデリナは、ミイが部屋に入ってきたなど。おかまい無しに、アデリナは工にめいいっぱい抱きついている。


 やっとの思いで口を塞いだミイは考えたー

 目ん玉を限界まで飛び出させ、充血させながら、何が起きたらこの状況になるんだ? なぜ身体を密着させている? なぜ工が姫様のお部屋に? なぜ私の工が姫様と・・。それに全裸、全裸、全裸、全裸、全裸、全裸、全裸ー


 ミイは全裸という単語が頭の中がいっぱいになり、一つの決断に至ったー


「コカーーーン!」


 高く響く音が部屋中に轟くー


 工は悶え倒れたー


 怒りの形相を露にしながら、ミイが工の股間を力一杯蹴り上げたのだった。


「何をするのですミイ」


 アデリナは倒れた工を抱きかかえ、自身の大きな胸を工の頬へ当てた。

 それを見たミイはますます怒りが湧き上がった。


「なんであんたがここにいるのよ! てか、姫様も姫様!なんで全裸なんですか! 早く服を来なさーい!」


 工は自身の頬にアデリナの胸が当たっているのを確認すると、鼻の下を伸ばし始める。


「あんたねえ・・・」


 工が鼻の下を伸ばした事に、ミイのイライラが限界まで達しようとしていた。


「やめてください! この方は私の婚約者様なのです!」


 ミイと工は目を見開き、唖然ー



 ※  ※  ※



 〈城内・中庭〉

 帝都が誇る芝生で満たされた広大な中庭。

 広さは直径200mほどの敷地。

 帝都の兵士であろう軍隊が自身を磨いていた。

 能力の鍛錬、刀剣の整備、刀剣でのマッチ、格闘訓練など。


 その横をミイが歩いている。

 どことなく不機嫌に。


「付いてこないで」


「ちょっと待てって」


「いいから付いてこないで」


「何で怒ってるんだよ」


「はあ!? 今の言葉わけ分かんない」

「あんたが姫様に抱きついているからでしょ! しかもしかも全裸全裸。 あーもう知らない!」


「いや、アデリナから抱きついてきたんだって。」


「アデリナって・・・もう名前で呼ぶ付き合いになってるんだ」


「違うってそれは・・・」


「終いには婚約者ってどういう事よ!!」


「それは説明しただろ。アデリナが勝手に・・・」


「またアデリナアデリナってうるさーい!」


「何でそんなに怒ってるんだよ」


「もううるさいうるさいうるさーい!!」

「私はあなたの教育係なの!勝手な行動は慎みなさい!」


 2人が言い合いになっていると、1人の兵士が横から口を挟む。


「よっ! 痴話げんかか!?」


 横からの声に2人は声を合わせて、


「痴話げんかじゃない!!」


 2人は見ると、坊主頭に2本、左眉毛に2本ずつ剃り込みが入った男。

 大柄な身体に、強靭な筋肉、パッツパツの白Tシャツにスキニーパンツ。


「あら、スアレスじゃない」


「よっ!」


 外見を見ただけで分かる。この男は強い。

 卓越した肉体に、じわじわと感じるオーラ、周囲を凍り付かせる外見。

 この男とは関わらない方が身の為だと思った工は一言も発しず、ただミイとの会話を見ているだけだった。


「スアレス、この前話した任務の件だけど、このハレンチ男が隊長だから」


「誰!? このガキは!?」


 スアレスは鬼の形相で工に睨みを利かせた。


 工は身体が硬直して、動けなかった。形相にビビってしまったのだー


 だが、スアレスは顔が緩み、その鬼の形相がまるで愛しの赤ちゃんを見るような形相に変化を遂げ、自身の自慢の筋肉でもある胸に、工の頭を埋め込み、抱きしめた。


「なに〜この子〜かっわい〜♡」


「へっ・・・」


「言い忘れてたけど、スアレスは若い男が大好きだから」


「ギャーー!!」


 工の悲鳴は帝都中に響き渡ったー


 ※ ※ ※



 〈城内・食堂〉

 大理石の地面、壁、天井。

 開けた部屋に、四つの木製で出来たロングテーブルとロングチェア。

 一脚で20名ほど座れる。

 その一角に、メラース全団員が食事を取っていた。


「改めてよろしくな!」


 スアレスと工が向かい合って座る中、工に手を差し伸べたスアレス。

 どことなく、違う感情を感じるスアレスからビビりながらも2人は握手。


「みんな聞いてくれ。今日からメラースに入団する工だ」


 工はいつ俺が入団すると言ったと、言い返そうになったが、高速のテンポで進む段取りと、スアレスの大歓迎の笑顔に、言葉を発する事が出来なかった。


「宜しくお願いしま〜す」


「では乾杯だ!!」


 全員でグラスを合わせ、乾杯ー


 笑顔の男が工に歩み寄り、隣の席に座った。

 赤髪のツンツン頭で,背は比較的小さく、細身のその身体。


「今度の任務に一緒に同行する ベコラスってもんだ! 宜しく!」

「聞いたよ! お前強いんだってな!」

「手見せてくれ」


 おもむろに手を見せつける。


「スッゲー 9位」


 メラース団員が注目し、工の手に注目が集まった。


「ランキング9位というのが本当にすごいのかー」と改めて実感しつつ、自分には力がある事を再確認するように、自慢げに見せびらかした。確かに普通に考えれば、世界で第9位とは考えたらすごいと思う。1位〜100位までにしか、数字が身体に表記されない時点で、ランク外の人物も数多にいる訳だ、その中の9位ってどんだけすごい事なんだ。メラースの団長ミイだって15位だ、それ以上の持ち主って訳だ。


「俺はランク外だから、まだ数字無いんだけどよ。いつかトップ10入りを目指してんだ!」


 努力に鍛錬を重ねる人物にとって、俺の存在を憎いと思うヤツはいてもおかしくい。何も努力すらしていない俺に、ここまで優しく接してくれる団員に感謝だ。


 この温もりのある食事会が夜遅くまで続いた。


 手厚くもてなされる工は、メラースという団が好きになったー



【NEXT】

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