第5話 賭剣士の力

 

 額から冷や汗が垂れ、動揺を隠しきれないジャブラー。

 削られた右肩を押さえながら、


「なぜだ! なぜ生きてる!」

「両腕を切り落とした! 死んでいたはずだ!!」


 あまりの勢いで、ジャブラーの口から唾が飛び散った。


「・・分からない・・・いい気分なんだ・・・」

「あの時と同じ気持ちだ・・」


 あの時とは、幼少期に出会った女性のことで、太陽みたいに暖かく包まれた気分で、香りはないが安心感が同じだということ。


 ジャブラーは、動揺していたが、一度冷静に戻ろうとした。

 一つ深呼吸。


「まあいい、次は首を切り落とす。それで終いだ」


 ジャブラーは戦斧を振り回し、戦闘態勢に入り、工に向かって走り出した。

 工は身動きすらとらず、じっとジャブラーを見つめた。

 その目は鋭く、冷酷で冷たいー


「ガシンッ」


 戦斧が工の左首に入ったー

 ジャブラーは目を疑った、眼前には血一滴すら流れ出ない工の首、ただ、戦斧による圧力に引っ込む皮膚のみ。

 ジャブラーの腕、首、頭には、力いっぱいを込めた証の、血管が浮き出ていた。


「なんだこの強靭な皮膚は・・刃が入らねー」


 もう一度、戦斧を振り下ろし、今度は工の右首に入った。

 結果は同じー


 ジャブラーは感じていた。

 先程とまるで違う顔つき、オーラ、肉体、そして強さ。

 この時点で既に、ジャブラーは力の差を感じていた。

 だが、工の両腕を切り落とした自分の実力に、相手を過小評価している部分が微塵ながらあったため、攻め込んだようだ。


 工は、残っている自身の肘関節から上の右腕をかかげ言った。


「俺は腕を賭けた。貴様は何を賭ける?」


 ジャブラーは、目付きと威圧に恐怖と違和感を感じ、10mほど飛び下がり、戦斧を再び構えた。

 工の勝利への自信と威圧が伝わり、焦りに息を切らしていた。

 ジャブラーは、もう一度深呼吸。


 「それ相応以上の物を頂き、このコロシアムに終焉を告げよう」


「(俺の能力は二重人格。相手に能力はバレていないはずだ、もう一度首に打ち込み、2回目で左足を狙う)」



「"ディミウールギア"」


 工は小さく言い放つと、直径1mほどの漆黒のホールが目の前に現れた。黒く深いそのホールは禍々しく、まるで小さなブラックホールが現実に現れたようだった。

 工はそのホールに上半身ごと突っ込んだー

 それはまるで、上半身部分だけ時空間に入り込んでいるようだ。

 そして、ホールから上半身を抜くと、ホールは消え、工の両腕が再生していた。

 その腕は切り落とされる前と全く変わらず、変わった部分と言えば、切り落とされた服の部分だけがなかった程度。


 ジャブラーは目を丸くした。


「(腕が再生した・・・)」


 ジャブラーは、工に強さ増したことに、怒りと殺意が湧き、歯を食いしばり、戦斧抱え工に向かった。


 工は右手を横にかかげ、残酷かつ冷酷、低い言葉で言い放ったー


「最初は右腕・・」


 すると、工の右サイドから再び、漆黒の直径30㎝ほどのホールが現れた。

 ホールに右手を突っ込み、長く全身漆黒の両刃剣を、ホールから抜いた。

 剣からは黒い煙のようなオーラがムンムンと放っていた。

 黒刀。


 工はまばたきを2度したー

 戦斧抱え、工に向かってくるジャブラーの動きがスローに見える。

 あまりにも遅く、一歩踏み出すのに2秒ほど。

 沸く観客、実況もスローに聞こえ見える。

 工はジャブラーに向かって走り、右腕を黒刀で切り落とした。


 そして、工はジャブラーを見るとスローは解除されていた。

 時間がスローになった訳ではない。工の速度能力が格段に増したのだ。そのため、周囲の風景や敵の動きが遅く見えたのだ。


 ジャブラーは、腕を切り落とされたことに気がついていない。

 工に向かっていったが、見ると工はいなくなっていた。

 左右を見渡してもいない、あるのは地面に刺さった戦斧と、戦斧を掴んでいる肘関節から下の右腕だった。

 頭を整理して気がついたー

 膝をつき、噴き出した血が周囲を赤く染め、痛みが全身に駆け巡り、叫んだー


「お、おれの腕がーーー!!」

「うああああああああー!!」


 工はゆっくり膝をついたジャブラーへ歩み寄り、血だまりの地面を躊躇なく歩いた。

 正面に立ち、ジャブラーを見下げた。



〈特設ブース内〉

ミイは、顔が変形する程、防弾ガラスに顔を密着させ戦いを見ていた。


「シュテーゲン、だから言っただろ! 私の見込んだ通りのヤツだ!」


シュテーゲンは、ミイがあまりにも防弾ガラスに顔を近づけすぎるため、また出た。悪い癖と思った。



「哀れだ・・それに汚ねー」

「天と地ほどの歴然なる力の差に怯えが隠せてねー」


 ジャブラーは、恐怖に身体が震えていた。


「ま、まいった・・俺の負けだ。降参だ。」


 実況はその声を聞き、改めて、


「なんと! 勝者コウーー!」


 観客が沸いた。


 工は屈み、ジャブラーと同じ目線の高さに顔を合わした。


「殺してきた奴らが貴様を呼んでいる」


 周囲にある血溜りから、人間の顔が浮かび上がっているように見える。

 それは、ジャブラーが殺めてきた人らの亡霊とでも言うのか、それが工には見えているため、そのような発言をしたようだ。


 そして、工はリップシンクで言った。


「つ・ぎ・は・ひ・だ・り・う・で・・・」


「グサッ・・・」


湿った生肉を思いっきり地面に叩きつけ、その肉を引きちぎるような、鈍くグロい音ー


 ジャブラーはいきなり吐血したー


 工は口角を上げ、少し笑顔だった。


ひと突きだった。


見ると、ジャブラーの左胸、心臓に黒刀が刺さり、背中を貫通ー


「なっ・・・」


 ジャブラーは、血だまりの地面に大きく血はねを立てて倒れたー


倒れた相手を確認すると、躊躇なく黒刀を左胸から抜き、付着した血液を払った。


「やっぱ、嘘は苦手だ・・・」


歓声が上がるー


工の右手甲には数字の9が浮かび上がったー




 《沢渡 工 プロフィール》

 沢渡 工(標準)(20)ランク9位

 所属ラン集:なし

 役割:なし

 能力:ギャンブラー・・・賭ける物の代償が大きい程、力が増大(力は未知数)

 座右の銘:女性はおっぱいが命



 《沢渡 工 プロフィール》

 沢渡 工(覚醒Ver)(20)ランク9位

 所属ラン集:なし

 役割:なし

 能力:ギャンブラー・・・賭ける物の代償が大きい程、力が増大(力は未知数)

 座右の銘:貴様は何を賭ける?



【NEXT】


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