第4話 危篤と片鱗の勢

 

 《ジャブラー プロフィール》

 ジャブラー(不明)

 所属ラン集:なし

 役割:元死刑囚処刑人

 能力:二重人格・・・1回の攻撃で攻撃回数が2回

 座右の銘:牛のように図々しく進む




 〈闘技場〉

「うああああああああ」


 切り落とされた腕の断面を見ながら、掠れた悲鳴が響くー

 断面から血液が垂れ流れ、地面に血溜まりが出来ていた。


 血眼になり、鼻息が増し、工へゆっくりと歩み寄るジャブラー。


「たまんねー これがたまんねーんだわ!」

「切り落とした時の柄から伝わるこの感触、爽快感」

「やめられねー!!」


 痛み苦しむ工に、ジャブラーの言葉など一文字も入ってこない。

 膝をつき、俯く工は、ただ、対するジャブラーがどうであれ、どうでも良い。この腕をどうすれば良いのか、これからどうすれば良いのか、俺は死んでしまうのか、流れ出る血液を見ながら、頭の中の血液も駆け巡る。


 工は徐々に目が掠れ始め、意識が朦朧としてくる。



 〈特設ブース内〉

 無表情で、腕を組んで見ているミイ。

 シュテーゲンは、ミイと目の前の戦いに目線を往復させた。

 表情は変わらず、戦いを見たまま。



 〈闘技場〉

 工の前に仁王立ちするジャブラー。

 工は力つき、顔から生気が見えない。


「弱いヤツは死ぬ。ここではそれが常識」

「死ね」


 ジャブラーは戦斧を大きく振りかぶったー


 この痛み、血の量はなんなんだ?見たことも聞いたこともないぞ。

 ここはどこだ?この場景すら理解できない。

 違う世界にワープしたとでも言うのか?

 ありえない。

 工はこの状況を理解しようとしていた。


「戦意もないお前に、首をを切り落とす価値もない」

「ズバッ・・・」


 鈍い音とともに、、肩関節から下の左腕が切り落とされ、工は倒れたー

 意識がなく、心の臓は止まっているー


 場内アナウンス。


「これは残酷だー!」

「右腕を切り落とされ、消沈した相手に最後の一撃をくらわしたー」

「勝負が決まったー!」



 〈特設ブース内〉

 勝敗が決まったにも関わらず、無表情で、腕を組んで見ているミイ。


「ミイさん、また失敗です・・・これで、22回目です」

「毎回、才能ある者を見つけては、戦わせるやり方を少し変えてみては・・・」


「・・・今回は行けると思ったんだが、相手が悪すぎたか」


 ミイは今までに原石を見つけると、何かしらの戦いに挑ませ、その秘めた力を引き出し、仲間に加えようと考えていた。

 だが、悉く皆、その入団試験には失敗していくのだった。

 以前見つけた原石は、溶岩地帯に住み着くサラマンダーと戦わせ、焼き殺されたケースや、入団希望をしてきた男に、ある国の将軍の首を取れば入団の約束をすると言っては、失敗に終わっていた。

 今回もまた、失敗に終わってしまったことにシュテーゲンは、いい加減この無理難題過ぎる試験をやめてくれないかと、心の中では思っていた。

 だが、ミイ自身は、厳選に厳選を重ねることで、より強い団を結成することが出来るため、この方式をやめようとはしない。



 〈闘技場〉

 ジャブラーは戦斧を抱え上げ、雄叫びを上げた。


 観客席は興奮し、歓声があげられた。


 すると、西門から白い衣服を着た救護班2名が担架を運び入れ、工の切り落とされた両腕と本体を担架に乗せ、西門へと運び出したのだ。


「これは惨い・・」


 観客や、ジャブラーなど、工に目線などまるで向けない。

 敗戦者など見る気もないのだ。

 全てが勝利優先の世界では常識なのかもしれない。


 暗闇に沈む西門に運ばれる遺体ー


「ドクッ・・ドクッ・・」


 どこからか、心臓の鼓動が薄ら聞こえる。


「今回のコロシアムはこれにて閉会になります」

「お集りのラン集の皆様はいかがだったでしょうか? お気に入りの選手はいましたか?」

「受付にて、スカウト希望の申請を宜しくお願い致します」


 アナウンスと共に、客席、特設ブース内、ジャブラーはその場を去ろうとしていた。


 突如、ものすごいスピードで西門からジャブラーに向けて、影が飛び去ったのだ。


 すると、ジャブラーの右肩の肉が削られ、血が噴き出した。


「な、なんだ・・・」


 慌てて出血部分を手で押さえた。


 ジャブラーから10mほど後ろに、両腕を失った工が立っていた。

 両腕からは出血が見られず、切り落とされた腕の断面は見えるが、止血されている。


 救護班が止血をした訳でもなく、工の秘めた力という物が止血をしたようだった。


 よく見ると、工は口を動かし、何かを食べている。


 明らかに変わる性格と目付き。

 目付きは鋭くなり、性格は大人しいがどことなく秘める荒々しさがある。


 工は口に含んでいた、ジャブラーの肉片を吐き出した。


「牛のザブトンは、希少部位で美味だと聞いたことがあるが・・脂身もねーただの筋肉質の肉だな・・」

「くそまじー」


 帰宅しようとしていた観客は、その一連に、「なんだなんだ」と1人の声に観客が視線を連鎖させ、まだコロシアムが続いていることを認識し、再度注目を集めた。



 〈闘技場〉

 防弾ガラスに身体を乗り出し、ミイは興奮していた。


「きたーー!! シュテーゲン! これを待っていたんだ!」


 シュテーゲンは驚嘆していた。

 ミイが「これを待ってました!」と言わんばかりの表情の変わり様と、心の臓が止まっていたはずの工が、再度血を巡らせ、心の臓を動かしたことに。

 それ以前に、両腕を失い、大量の出血をしているにもかかわらず、また、精神ダメージも相応に負っているに関わらず、何事もなかったかのように、身体や口を動かしていることに驚いていた。


「あの者は何者で・・?」


「詳しいことは後で話す。いいからよく見ておくんだ!」


「始まるぞ! 賭剣士かけんしの戦いが・・・」



【NEXT】








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