第3話 亡失の腕
《シュテーゲン プロフィール》
マルクス・シュテーゲン(18)ランク97位
帝都直属支配下にあるラン集(ランキング集団)
所属ラン集:メラース
役割:諜報部員シュテーゲン 主に的の偵察や情報収集
能力:ウルフ・・・オオカミを操る、人獣になれる
座右の銘:犬じゃないオオカミだ
〈闘技場・控え室〉
「ドサッ」
2人の兵士に抱えられ、工は嫌々に抵抗を続けていた。
「おい、何すんだよ! 」
「あなたは今からコロシアムに出場するのよ」
「コロシアム?」
工は辺りを見渡した。
薄汚い20畳ほどの部屋には、甲冑や剣など戦う為に必要な装備がズラッと並んでいた。
「ここにある装備品は自由に使っていいわ」
「ちょっと待ってくれ」
「試合は3時間後、10分前にアナウンスがあるから下に降りてきて・・・」
「だからちょっと待ってくれ!」
「・・・
「・・・・」
ミイが言い放つと、ドアがしまる。
短い出会いだが、普段と違うミイの表情と口調に違和感を持った。
それ以上に懐かしい口調に戸惑った。
工は、辺りにある装備品を一瞥した、先程までとは違うミイの表情に、コロシアム参加ざる得ないと感じたのだ。
装備品を手に取り、自分にフィットする装備品を探し出した。
※ ※ ※
〈闘技場〉
円形に作られた競技場。
天井が抜け、円形上の縁をひな壇で囲む客席。
中央には直径200m程の、戦闘を行う芝生の平地スペースがあり、客席と戦闘スペースの間は、高さ20mの壁で観客に被害が出ない対策がされていた。
闘技場最上段には、防弾ガラスで仕切られたブースがいくつもあり、そこには名もわからない手練れであろうラン集たちが集っていた。
メンバーをスカウトする為に見学しているのだ。
自身のラン集に、強く魅力的な血を新たに取り入れる事は、ラン集の知名度を上げ、最強の称号を得る為の近道なのだと考えるラン集もいる。
逆に、このコロシアムからのスカウトでなくとも、ある程度有名なラン集だと、逆オファーをしてくるルーキーもいる為、参加しないラン集もいるようだ。
人それぞれに自身のラン集の強化に励んでいる。
《ラン集スカウトコロシアムについて》
今までに96回行われたラン集スカウトコロシアム。
ルーキー達は自分の力を示し、よりレベルの高いラン集に入団する為、しのぎを削るイベント。
様々なラン集たちが特設ブースから見学し、一団の色にあったルーキーをスカウトするも良し、また、特殊で希少価値の高い能力者をスカウトするのも良し、伸びしろのあるルーキーをスカウトするのもありのスカウトイベント。
1対1の一本勝負の中、
選手達の命は保証されず、戦いによって命を落としても自己責任、将来と生命をかけた戦いだ。
イベント中、装備品について制限は特になく、相手が降参するか、死ぬかで勝敗が決まり、全ての戦いが終了後、各一団が個々にルーキーをスカウトしていく。
場内選手紹介。
「さあ始まりました! 年に一度の大イベント、第97回ラン集スカウトコロシアムの開催です。本日も多種多彩な強者が集っております。また、コロシアムでは、ラン集にスカウト待ちのルーキーの為、豪華なラン集の皆様にも集ってもらっております。選手の皆様は力を存分に発揮してラン集の皆様へアピールして下さい。それではスカウトコロシアムの開催です!」
大きな大砲の爆音と演奏団が奏でる曲でコロシアムの始まりが記された。
東西の門が開き、2人の選手が選手紹介アナウンスと共に、歩いて出てきた。
東からは、赤い甲冑に両手剣を持った、赤髪ロングヘアの女性。
身体もスリムで容姿端麗、一見戦い向きではないと思われる身体だが、その表情からは自身しかない。
西からは、強靭な筋肉に覆われ、大剣を持った上半身裸の男。
その筋肉が、強さの象徴と言わんばかりの自身を感じさせる。
「女だろうと容赦はしないぞ」
「容赦したら許さない本気で来い筋肉バカ」
「ガシンッ」
両者は剣を交えたー
※ ※ ※
〈特設ブース内〉
数時間後。
真っ暗なブース内では、
「団長、今回は何人か良い血を入れれそうでは・・!?」
「・・・・」
〈別ブース内〉
ミイが腕を組みながら観戦していた。
シュテーゲンは言った、
「あの男にそんなに魅力が? 相手がジャブラーじゃ下手したら」
ミイは表情一つ変えず、ずっと腕を組んだまま
〈闘技場〉
「死闘におよぶ大熱戦、いよいよ最後の戦いになりました」
東門から人影ー
「東門からはご存知、首切り処刑人ジャブラー! 長年何人もの首を戦斧で切り落とし、その戦斧には殺めた者の魂が宿るという。今回、自身の力を試そうと、ラン集に入団を希望したそうです」
客の歓声が沸く。
東門から出てきたのは、身長2mの身体は筋肉質で黒い体毛で覆われ、顔も布で覆い隠れている男。
右手には戦斧を持っている。
戦斧は片手で持つには重すぎる為、普通の者ならば両手で持つ代物だが、この者は片手で軽々振り回している。
咆哮。
「西門からは今大会一番のダークホースと言っても良いだろう、全てが未知数のこの男 コウー!」
客の歓声が沸く。
西門から出てきた工は、あまりに大きな客の歓声と、直径200mのコロシアムに驚愕していたー
工の装備品は鎖帷子を全身に取り入れ、皮のロングコートを来ている見た目は軟弱なスタイルだった。
これは工なりに考えた物で、重さをなくし軽さとスピードを重視したスタイルのようだ。
背中には、シルバーの両刃の長剣。
工はジャブラーを見ると、その身体の大きさに一歩後ずさりをした。
「こんなチビが相手とは、もう結果は付いて当然」
「・・・おっさん油断してると死ぬぞ」
「異性だけはいっちょまえだな」
試合開始のアナウンスが流れる。
「最終対決 第10組目の戦いです。それでは・・・ 」
ジャブラーは戦斧を抱え、工に向かって走って行った。
工は剣を抜き、構えた。
試合開始のアナウンスが終了する前に、2人は動き出した。
工は内心怯えていた。
もちろんのこと、剣すらまともに握った事がないペーペー。
ジャブラーは、大きく振りかぶった戦斧を工に向けて放った。
工は間一髪交わしたが、戦斧が地面に打ち込まれ、地割れのように地面が捲れる。
さらに、風圧で工は20mほど吹き飛ばされた。
うつ伏せの状態で倒れ込む工。
身体に痛みを感じたが、流石にそうだろう、普通の人ならここまで飛ばされることなんてないはずだ。
歴然なる力の差に、この後どう立ち向かうべきなのか悩んでいたー
体中は痛み、既にボロボロの状態だ。
工はジャブラーの方に顔を向けた。
ジャブラーの回りには、砕けちった地面が散乱している。
その凄まじき破壊力が露になっている。
勢いの良い鼻息で、頭に被っている布が巻き上げられ、布が顔から外された。
二本の角に伸びた鼻、顔は牛、身体は人間 牛頭人身(ミノタウロス)だった。
不気味に若気るジャブラーは、目が血走り、口から唾液が垂れる。
鼻息を興奮させながら、こちらに視線を向けた。
「ボトッ・・」
工とジャブラーが視線を合わせる中、ジャブラーの不気味に若気る顔に、一瞬被るように上から下へ、黒い物体が落ちてきた。
工は落ちてきた物体に視線を向けたー
唖然。
瞬きを2、3度行い、工の心拍数が上昇。
工は、あり得ないことが起こったように動揺していた。
どうしてなのか分からない。なぜここにあるのか理解できない。
工は、地面と横たわる自分の身体の間に、赤い液体が滲み出ていた。
その赤い液体と、鈍い音がした方に目を2度往復させた。
ジャブラーは今にも笑いが吹き出しそうになるが、堪えながらリップシンクで言った。
「つ・ぎ・は・ひ・だ・り・う・で」
工とジャブラーを挟む距離およそ20m。その平行線上、工から5mほどに、肘関節から下まで腕が、皮のコートと共に横たわっていた。
掌が上空を向き、それは工の腕だったー
【NEXT】
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