第7話 病院にて


「う、うう……」


 芥生が目を覚ますと真っ白で汚れ一つない綺麗な天井が見えた。


(……ここは? 俺の家じゃない)


 そう思いながら起き上がると芥生は自分が病院のベットで寝ていた事に気づいた。


(……病院 …… なんで?)


 芥生は自分が何故、病院のベッドで寝ていたのか不思議に思い人差し指をコメカミに当て記憶の糸たどると、キラーウルフと戦っていた事を思い出した。


(そ、そうだ! 俺は倒したと思っていたキラーウルフに後ろから攻撃され……)


 そして芥生は牧野がキラーウルフに殺された事も思い出す。


(……牧野さん)


 ガチャ


 芥生が牧野の事を思い出していると突然、扉が開いた。


「シゲさん、目が覚めたんだ。よかった」


 扉から入ってきたのは由美だった。


「由美か、ああ。大した事はないアースプロテクトをかけてたからな」


「そう、安心したわ」


 由美が胸を撫で下ろす仕草をすると芥生が尋ねた。


「由美、悪い。俺が気絶した後の事を教えてくれ。キラーウルフはどうした?」


「あれがキラーウルフって魔物なのね。初めてみたわ。あの魔物は私が倒したわよ」


 それを聞いて芥生はホッとした表情をする。


「そうか、流石だな」


「でも、なんであんな魔物が突然、出現したのかしら。課長の話だと、ここ10年、下級魔物ばかりでキラーウルフのような中級の魔物は出てきてないみたいな事言ってたけど……」


「そ、そうだ。あんな中級魔物が出れば大騒ぎなはずだ。なのに連絡ひとつなかった。吉田は何をしてたんだ?」


 吉田というのは柏市役所人外対策課に勤めている魔物を探知する仕事をしている魔法使いだ。魔物が出現すれば彼が芥生や由美に魔物の種類や場所を教える。だが、彼からの連絡は一切なかった。その事を芥生は不思議に思った。


 だが、その疑問に由美が答える。


「それなんだけど、吉田さん。キラーウルフを感知できなかったんだって?」


「なに! なんでだ?」


「わかんない…… 吉田さんも驚いてたわ。魔物を感知できなかった事なんて今まで一度もなかったのにって言ってわ」


 芥生は由美の話を聞いて少し考え込んだ。


(魔物の出現が感知できなかっただと…… そんな話、今まで聞いた事がない。一体どういう事だ…… うーん、何かおかしい。そういえば、あのキラーウルフ、俺の火球ファイヤーボールを受けて無傷だった。それにいくら奇襲とはいえ魔法で防御力を上げた俺がたった一撃で気を失うなんて。なぜだ…… 俺の力が衰えたのか)


 何やらうつむき加減で考え込んでいる芥生を由美は不思議そうに見ている。


「シゲさん、どうしたの?」


 由美に話しかけられハッとして顔をあげる。


「あ、いや、なんでもない。それより牧野さんの事だが…… やっぱり大騒ぎになってるんだろうな?」


 芥生が質問に由美は気まずそうに答える。


「う、うん。ここ10年、下級魔物ばかりが出現してから民間人の死者はなかったからね。マスコミがたくさん市役所に押し寄せてるわ」


「…… そうか」


 芥生がそれだけ言うと黙ってしまった。由美は心配そうな顔で芥生に話しかける。


「シゲさん、大丈夫?」


 芥生は由美に心配かけまいと笑顔で答えた。


「ああ、大丈夫だ。だけどちょっと疲れたみたいだ、少し寝るよ」


「そう? 後の事は任せてゆっくり休んでね」


「ああ、ありがとう。お前もあんまり無理すんなよ」


 芥生が礼を言うと由美は微笑み手を振り部屋を出て行った。


「……ふう」


 一人になった芥生は横になると大きく息を吐き出した。そして病室の天井を見ながら静かに呟く。


「そろそろ潮時だな」

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