第5話 キラーウルフ退治②
「ゆっくりだ、ゆっくりこっちに来るんだ」
芥生は牧野にこっちにくるよう手招きする。だが、牧野は足が震えて動けない。
キラーウルフの体高は170センチある芥生と同じくらいで、普通の狼の倍ほどの大きさがある。そして迫力も凄く鬼のような顔で唸り声をあげこちらを見ている。
こんな化け物を目の前にしたら動けないのもしかたがない。
ウヴォヴォヴォヴォ
(や、やばい…… キラーウルフは中級レベルの凶悪な魔物だ。コボルトみたいな下級の雑魚とは比べ物にならねー。しかし、なんでだ、ここ10年、下級魔物しか現れなかったのに…… 突然、こんな大物が出現するなんて…… それにキラーウルフがいるとわかったら大騒ぎになってるはずだ)
魔物は神出鬼没でどの場所から出現するかはわからない。だが、魔法使いの中には魔物が出現するとその存在を感知できるという特殊な能力を持った者がいる。
その者達は攻撃魔法を使うことは出来ないが魔物を倒せる魔法使いにテレパシーでどの場所に魔物が出現したかを教える事ができる。
キラーウルフのような恐ろしい魔物が出れば真っ先に連絡がくるはずだ。しかしそのような連絡は一切なかった。
(くそ! なんで連絡よこさねーんだよ)
芥生は心の中で愚痴ったが今はそんな場合ではない。とにかくキラーウルフから牧野を遠ざけなければならないが牧野は震えたまま動こうとしない。
(このじじい、何が魔物の人権を守れだ。思いっきりビビってんじゃねーか)
そういえば芥生は牧野を知る近所の住人に一度、聞いた事があった。この老人は数年前、どうやら奥さんをガンで亡くしているらしいと。そしてその辺りから牧野の言動が少しずつおかしくなったという話を……
魔物の人権を守れなどと意味不明な事を言って自分たちの仕事を邪魔しているが、もしかしたらこの牧野のおかしな言動は奥さんを亡くしたショックからきているのか芥生は震える牧野を見てそんな事を思った。
が、今はそんな事を考えている場合ではない。芥生は牧野を救う事に集中する。彼はキラーウルフの目を逸らすため、ゆっくりと横に動き出す。
そしてそれを見ているキラーウルフは芥生を睨み唸り声をあげると少しずつ芥生に近づいていく。
「そうだ、こっちだ。こっちに来い馬鹿野郎」
キラーウルフは鋭い牙を見せ今にも芥生に飛びかかりそうな雰囲気だ。
(来るか、クッソ、俺にこいつを倒せるか…… 倒せないまでも由美がこいつに気づくまでなんとか時間を稼げればいいが……)
そこまで考えて芥生は一年かそこらの新人に助けてもらおうとしている自分に気づき情けなく感じた。
「フッ 25年のベテランが新人頼ってるようじゃあ、おしまいだな。いいぜやってやる。キラーウルフよ。お前は俺が倒す」
芥生は気合いを入れると魔法を詠唱し始めた。
「アースプロテクトLv1!」
魔法を発動すると芥生の体が一瞬、土色のオーラが包まれた。
(よし、この防御魔法なら二、三回は攻撃を食らってもダメージを受けることはないだろう)
芥生はさらに強化系魔法を発動する。
「イグニスバーニングLv2!」
今度は赤いオーラが一瞬だけ芥生を包むとすぐ消えた。イグニスバーニングは攻撃力を上げる魔法だ。防御魔法や強化系魔法などの補助魔法は同じ魔法でもレベルがある。最低がレベル1で最高がレベル3だ。
もちろんレベルごとに強さが違うし使う魔力の消費量も違う。そのためレベル1からレベル3までの魔法をバランス良く使用しなければ魔力を消費しすぎて攻撃に魔法を使えなくなってしまう事もある。
キラーウルフは芥生が魔法使いだとわかっても全く臆する事なく近づいてくる。
「さあ、いくぜ!」
芥生はキラーウルフに向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます