第4話 キラーウルフ退治
「 魔物の人権を守れ! お前らのやっている事は人権侵害だ!」
老人が怒りをあらわにしながら芥生の方へ近づいてくる。
(うわっ こっち来たよ〜 メンドクセーなぁ)
芥生はあからさまに顔をしかめ、向かってくる老人をいさめた。
「牧野さん、ちょっと危ないですよ。とっとと避難所に行ってください」
牧野と呼ばれた老人は「魔物の人権を守れ」と書いてある旗を芥生の目の前でバタバタ振りながら抗議する。
「うるさい! うるさい! 魔物は危険な生物ではない。だから危なくなどない! 危ないとしたら魔物の人権を守らず殺してしまうお前ら魔法使いどもじゃ!」
「ちょ、ちょ、あぶねーっつーの!」
芥生はため息をつきながら牧野を冷ややかな目で見る。
(何が、魔物の人権を守れだ。人じゃねーから魔物なんじゃねーか。このボケジジイ)
「なんじゃその目は、ワシのことボケ老人を見るような目で見おって馬鹿にしてるのか!」
正直、図星だった。しかし、それを悟られまいとして芥生は慌てて否定する。
「いやいや、そんなことありませんよ。でも牧野さん、なんであなたは魔物を守ろうとするんですか? 今まで魔物は多くの人間を殺しているんですよ。人間に害をなすものは駆除しなければみんな安心して暮らせませんよ」
「バカモン! それはお前たちが魔物を殺そうとするからじゃ、魔物からしたら自分の身を守っているに過ぎん。心を開いて接すれば魔物は人間を襲うことなど決してないわ」
(参ったな。この人、もう何年もこんな調子で俺たちの仕事を邪魔してんだよなぁ。なんで魔物なんか守ろうとしてんのか謎だが)
実はこういった、人間よりも魔物に味方をする変わり者は結構多く、正直、何が目的なのかわからない。行き過ぎた人権意識なのか、人によっては日本に敵対する国が日本を弱体化させるために魔物の味方をしている。つまり他国のスパイだという者もいる。
だが、それを証明するものは何一つなかった。
そして牧野の怒りは収まらないようで早口でまくし立てる。
「いいか、ワシにはなぁ政治家の知り合いがおるんじゃ、その人に魔物を保護してくれるよう頼んだら今度の国会で魔物保護法の法案を提出してくれると言っておったわ」
「はあ? 魔物保護法?」
「そうじゃ! この法案が通れば今後、お前ら魔法使いは魔物を殺せなくなる。ざまぁみろ! カカカカ」
牧野は芥生を馬鹿にしたような薄笑いをしながら見ている。
(…… ったく、そんなアホな法案通るわけねーよ。ってかそんな馬鹿げた法案出す国会議員ってどこのどいつだよ)
芥生はあきれて天を仰いだ。そして牧野を説得し避難所に誘導しようとした。だがその瞬間、驚きで目を見張る。
グルルルルルル
「ん……? な、なんじゃ? 今の……変な声が聞こえたぞ」
牧野が突然聞こえた動物のような唸り声に驚きながら辺りを見回す。すると芥生が恐怖に歪んだ顔で自分の後ろを見ている事に気づいた。牧野は不思議そうに尋ねる。
「なんじゃその顔、後ろになんかいるのか?」
そう言いながら牧野は後ろを振り向こうとする。しかし芥生はそれを静止した。
「牧野さん、駄目だ。絶対後ろを振り向くな。魔物だ。あんたの後ろにキラーウルフって狼型の魔物がいる。絶対、振り向くなよ。振り向いたら死ぬぞ」
それを聞いた牧野は恐怖で全身が硬直する。芥生は牧野が声を出さないよう人差し指を唇に首を左右に振る。そして自分を落ち着かせるため静かに深呼吸をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます