第3話 コボルト退治 その3


「おい! 由美、大丈夫か?」


 芥生が由美の元へ駆け寄る。由美は襲いかかるコボルトの尖った爪攻撃を華麗に交わしていた。


「こんなの大した事ないわよ。でも、めんどくさいからシゲさんも手伝ってさっさと終わりにしましょう」


「おう! わかった。こいつらは俺が相手して隙を作る。お前はいつでも魔法が撃てるよ準備しておけ」


「了解よ!」


 由美がコボルトから距離を取るのを確認した芥生は近くにいるコボルトに二段蹴りを食らわした。


 グゲゲ


 コボルトはヨロヨロと後ろに下がるがすぐに牙をむき出し芥生を威嚇した。そして右手を振り上げ鋭い爪で襲いかかってくる。

 

 しかし、芥生のその攻撃をヒョイと軽く交わす。コボルトの鋭い爪と牙は当たれば脅威だが攻撃自体は単調で読みやすい。


 芥生はコボルトの攻撃を交わした瞬間に脇腹に左フックを見舞う。そして右アッパーと右ストレートを立て続けに食らわした。


 コボルトは先ほど同様、ヨロヨロと後ろに下がる。だが、素手の攻撃はあまり効果がないようだ。すぐに芥生に襲いかかってきた。


「ちょっとシゲさん、大丈夫?」


 由美が少し心配した様子で声をかける。芥生は、はぁはぁと肩で息をしながらコボルトの攻撃を避けると由美の方を見て答えた。


「ああ、悪りぃ。少し手間取ってるが心配すんな」


 由美は不安そうに芥生を見ている。するともう一匹のコボルトが芥生の後ろから襲いかかろうとしているのが見えた。由美は大声で叫んだ。


「シゲさん後ろ! 危ない!」


 後ろから襲いかかるコボルトは右手をあげ芥生に爪を突き立てようと振り下ろした。

 だが、芥生はそれを予期していたかのようにくるりと振り返ると右腕を上げその腕をコボルトの右肘に当てるとコボルトの攻撃を受け止めた。


 そしてコボルトの懐に入り右腕を掴むと柔道の一本背負いを食らわす。コボルトは見事な弧を描きながら宙を舞い、もう一匹のコボルトと衝突した。二匹のコボルトは重なりあって地面に倒れた。


 芥生は素早く後ろに飛び退くと由美を見て叫んだ。


「いまだ!由美! 食らわせろ!」


「やっとか」


 由美はため息をつきながら右手を突き出し魔法を発動するとボーリングの玉ほどの大きさの火の玉が弾丸のようなスピードで二匹のコボルトに向かって飛んでいく。


ギャース!!


 二匹のコボルトは悲鳴を上げながら火だるまになるとバタッと倒れ生き絶えた。

コボルトの全滅を確認すると芥生が由美の元へと向かう。


「現場離れちまって悪かったな。すまん」


「もう、シゲさん、焦ったわよ、逃げたコボルトを何も言わずに追いかけて行っちゃうんだもん」


「すまん、だけどお前が残った方がいいと思ったんだ。俺じゃあ四匹のコボルト相手すんのは難しいからな」


「ふーん、まあ、無事終わったいいけどわね」


 由美は呆れ顔で芥生を見ていたがすぐ笑顔になった。


「よし、帰るか。さっさと報告書を書かねーとな。おっとそうだ、あそこで南雲が待ってたな。わりぃ由美、あいつにコボルトを全部倒したことを言ってきてくれねーか」


 芥生が頼むと由美はめんどくさそうに答えた。


「えー あいつかぁ。あんま話したくないんだけど、あいつ事あるごとに私を口説こうとするからなぁ」


「そ、そうか。じゃあ、俺が行くか」


 気を利かせたつもりだったがどうやら由美は南雲には興味がないらしい。芥生が南雲の方へ向かって歩き出そうとすると由美が引き止めた。


「シゲさん、いいよ。疲れたでしょ。私が行くからちょっと休んでて」


 そういう由美は南雲の待つパトカーの方へ向かった。


(……南雲、お前早く由美の事は忘れた方がいいぞ)

 芥生は気の毒そうな顔で南雲の方を見る。そして疲れたのかその場に座り込んだ。


(ふう、とりあえず終わったか。少し休んだらこのスーパーの責任者の所に言ってここにコボルトと戦う事に協力してくれたお礼を言いにいかなきゃな)


 魔物と戦う際、魔法を使うため、なるべく広い場所で戦わなければならない。そうしなければいろんな被害が出る。なので大きなスーパーの広い駐車場などに魔物を追い込んで戦う事が多い。だが、それにはその場所の責任者に許可を得なければならない。

 

 今回、このスーパーの駐車場にコボルトを追い込み戦う事の許可を事前にスーパーの店長に貰っていた。また店長にはこの駐車場に車を止めないように頼んでいる。


 芥生は重い腰を持ち上げ店長も元へ歩き出すと大きな怒鳴り声が聞こえた。


「お前ら! ふざけるなよ! 魔物にだって人権はあるんだ! お前らのやっている事は人殺しと同じだ!」


 芥生は声をした方向を見ると一人の老人がスーパーの中から「魔物の人権を守れ」と書いてある旗を掲げ怒鳴りながら出てきた。


「また、あのジジイか」


 と、芥生は肩を落としながら面倒くさように呟いた。

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