ご先祖様はみんな生きている

 あたしの一族の女系はみんな死んでも生きかえる。百万回目にようやく死ぬらしい。それは誰に教わるまでもなく感覚でわかる。絶対音感をそなえている人のなかには音階が色で視える人がいるらしい。聴覚情報が視覚情報に変換される。

 生きかえることができる回数はシューティングゲームに喩えるならば「残機」だ。あたしもママも祖母も曾祖母もみんな現在の正確な「残機」を思い浮かべることができる。

 百万回死ぬのは難しい。だからあたしのご先祖様はまだ生きている人が多い。あたしから数えて15代前──「ウルトラスーパーデラックス祖母」も存命だ。生きている。じつは一緒に暮らしていたこともある。

 25歳で代替わり──つまり出産したとする。25年かける15代イコール375年も昔の人ってことになる。

 300年以上を生き続けると、ヒトはどうなるか? 老いるごとに身長が縮む。痩せて骨と皮に近づいていく。300年以上ともなれば手のひらに載るくらいの石ころになる。つまり「生きた墓石」になるってわけ。

 子どものころ、あたしは実家で多くの石と暮らしていた。歴代女系の面々だ。石化したご先祖様たちは声を発することができない。超能力者の家系ではないからテレパシーなどで意思の疎通はできない。

 石に変質したご先祖様たちは、飲み食いしなくても死なない(正確には餓死してもどうせ生きかえる)からサボテンよりも世話いらずだった。

 ママは石になることに懐疑心をもっていなかった。でも、あたしはイヤだった。石になりたくない。ご先祖様たちのように飲まず食わずで生き続けるなんて地獄だ。石になるのはイヤだ。ウルトラスーパーデラックス婆さんになりたくない。あたしだけは石になるまえに百万回死んでみせる。

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