あたしは友だちを殺したことがある

 子どもの頃によそ見しながら歩いていて電柱にぶつかったことはないだろうか? あたしはよくぶつけていた。小学校の下校時にひとりで帰っていて、ぐにもつかないことを空想しながら歩いていたら「ゴチン」と頭をぶつける。側溝ドブに足をとられて落ちたこともよくあった。5回くらい側溝にはまると1回は道路と側溝の境界で頭の打ちどころが悪くて死ぬ。あたしの場合はそのまま生きかえって帰宅したけれど。

 小学3年生のとき仲が良かった同級生のよし子ちゃんをふざけて突き飛ばしたことがある。ちょうどトラックが通り過ぎようとしたときに友だちのことを驚かせようとおもってトラックに向かって突き飛ばしたら──よし子ちゃんはぐちゃぐちゃになってしまった。トラックの後ろのタイヤに巻き込まれたからだ。真っ赤な肉のかたまりはいつまでたっても元に戻らなかった。そのときは時間が掛かるのかなと思った。次の日にまた教室で会えるかなと思っていた。

 ぐちゃぐちゃになったよし子ちゃんを残して、あたしはうちに帰った。おなかがすいたからだ。帰ったあとおやつのプリンを食べてテレビでアニメを観ていたらお母さんが帰ってきて一緒に夜ごはんを食べていたら、知らない人──おまわりさんのお姉さんがやってきた。よし子ちゃんとはもう会えないのだと言われた。悪い人がトラックを運転していたらしい。

 おまわりさんのお姉さんが帰ったあと、よし子ちゃんについてお母さんにいろいろ訊かれたけど「知らない」と答えた。

 つぎの日に学校に行ったら、よし子ちゃんはいなかった。その次の日も。次の次の日も。よし子ちゃんはいちばん仲良しの子だった。よし子ちゃんが来なくなったので一緒に遊ぶ子がいなくなってさびしかった。友だちをふざけて突き飛ばすとさびしくなることをあたしは知った。

 自分がちょっとくらい死んでも平気なので、子どものころは生死にまつわる感覚がおかしかった。じつは今でもよくわからないが。

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