ママは傭兵。パパは武器商人。

 そういえば。あたしはお金に苦労したおぼえがなかった。Amazon.co.jpやZOZOでネットショッピングするときに悩んだことがなかった。欲しいものは迷わずにポチっていた。お急ぎプライム便をつかうのは当たり前だった。

 オートロック付きのマンションで、キッチンがあって、スチームオーブンがあって、食器洗い器があって、風呂トイレは別れていて、ドラム式の全自動洗濯乾燥機があって、まあまあ広いリビングがあって、あたしには自分の部屋があって、ママにも自分の部屋があって、それ以外にも部屋がひとつあった。家賃はきっと高かったはず。

 うちは母子家庭だった。でも裕福だった。ママが稼いでいたからだ。

 ママは傭兵だった。お給料をもらって戦争のお手伝いをする仕事だった。だからママは海外に出かけていることが多かった。

 小学五年生ぐらいから、あたしはひとりで起きて、ひとりで朝ごはんを食べて、学校から帰ってきてもひとりで、ひとりぶんの晩ごはんをつくって食べて、ひとりで眠りにつくことが多かった。そのほか、生活をしていて困ったことやわからないことがあったら、ママの顧問弁護士さんにLINEで相談すればよかった。

 ママが傭兵だったから、あたしも将来は傭兵になるものだと思っていた。

 実際にママが小銃をかまえている現場を見学したことはなかったけれど、スマホカメラで撮影した戦場ビデオを観たことがあった。だからあたしはママが働いている職場の雰囲気をよく知っていた。耳をつんざくような銃声がにぎやかだった。おなじ職場で働いているひとの人種や肌の色はさまざまだった。たまにインスタにアップロードされる自撮りのママとその仲間たちは楽しそうだった。

 ママとパパが出会ったのも海外のどこかの戦場だったらしい。旧ソ連製の小銃を売りあるく武器商人だったらしい。パパの写真は残っていない。だから、あたしはパパの顔を知らない。ママとは国籍がちがう人だったらしい。あたしはハーフってことになる。でも、顔つきが日本人なので、あたしの周りの人は気づかなかった。ママがパパのことをはじめて教えてくれた日まで、あたしは自分がハーフであることに気づかなかった。たしかに背は平均よりも伸びた。おっぱいは普通だった。でも乳首はちょっとだけ長い。顔つきは日本人でもハーフの血は争えないようだ。

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