シームレスによみがえるから死んだことを覚えてない

 あたしは死産だったらしい。ママが言っていた。でも、あたしは生きている。つまり死産だったけれど特異体質のおかげで「よみがえった」。いちど死んだあとに産まれた。あたしは誕生した。オギャーッ!

 赤ちゃん時代のあたしは、風呂でよく溺れ死んでいたらしい。ママが湯船につかりながら居眠りをしたせいだ。「ごめんごめん。あのときはパートの掛け持ちをしていたから疲れちゃって……」と謝ってくれたけど、あたしは覚えていない。ママの野郎!

 誘拐されたこともあった。身代金を要求されたけれどママビッチは断乎拒否したらしい。ママの野郎……刑事さんが見ているところでは苦悶の顔つきをしながら、心のなかでは「どうせ殺されても生きかえるんだもんマジメに身代金なんて払ってられないもん」と余裕の心境だったらしい。ちょっとムカついた。でも真実だ。どうせあたしは殺されたって死んだあとすぐに生きかえるのだ。案の定、犯人に首をしめられて殺された。まさしく赤子の手をひねるように縊られた。ママの野郎!

 後日談。誘拐犯と連絡がとれなくなった2週間後くらいに、あたしとママのド畜生が住んでいた隣県の空き地であたしは発見されたらしい。飼い犬の散歩をしていたおじいさんに発見されたときには、あたしは元気そうに泣いていたそうだ。たぶん、あたしは遺棄されたあと生きかえったけれど餓死してからまた生きかえったと思われます。むごい。赤ちゃん時代のあたし。可哀想すぎる。ママの野郎!

 小学生低学年のとき。補助輪なしで自転車(チャリ)に乗れるようになってからも、あたしはよく死んでいたらしい。ママ公が把握しているだけで3回もあたしは車にひき逃げされている。覚えてないけれど、ママっころが轢かれたてで瀕死だったあたしに「死んだふりゲームしよう」とか遊びのふりをして、ひき逃げ犯にその場で金銭的示談をもちかけたとか何とか。犯罪じゃん! ママの野郎! 実のむすめに犯罪の片棒を担がせやがって!

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