シャンプー要らずの「朝死ャン」
ふつうの人は溺れると死ぬ。あたしだって溺れたら死ぬ。でも生き返る。いちど心臓が止まった肉体はリセットされる。精密に計測したことはないけれど、いわゆる「健康体」に巻き戻されるようだ。
たとえば。泥酔しているときダム通路から貯水部分にむかって落下したことがあった。そのとき溺れて生き返ったあとにはすっかり酔いが醒めていた。数分前までは酩酊状態だったはずなので、血中アルコール濃度がリセットされたと考えた。いずれ語るけれど、毒を飲まされたあとも生き返ったあとには五体満足だった。いったん死ねばニキビだって治る。
そんな体質を利用して、仕事に行かねばならない二日酔いの朝などは起き抜けに潔く死ぬ。浴槽にたっぷりのお湯に浸かって両膝を抱えたまま仰向けになればまもなく溺死する。はじめて海で溺死したときは苦しかったけれど何度も溺れているうち慣れた。
ふつうの人は目覚めが悪いときには「朝シャン」してから通学や出勤するという。あたしの場合は朝に死ぬから「朝死ャン」になる。
そうそう。良いことづくめに思える「朝死ャン」にも欠点がある。死んだら健康体になってしまうせいで栄養が足りてしまう。つまり空腹がおさまってしまう。朝死ャンすなわち溺死リセットをした日には、おいしいクロワッサンとホットコーヒーを食べる楽しみが減ってしまうというわけ。だから二日酔いで頭痛がひどくても朝死ャンしない日もある。
あたし、死んでばかりいる考え無しのオンナじゃありませんので。お間違えなきよう。
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