飛び降り自殺は慣れると気持ちいい
あたしは夜に鳥になる。
夜は羽ばたくにはうってつけの時間だ。
つまり、夜に飛び降りる。自殺する。目撃されにくいからだ。
裸で飛び降り自殺をする。あたしは死んでもすぐ生き返る。でも衣服の破損は免れない。脳漿ぶちまけても内臓ぶちまけても大腸や膀胱のなかみをぶちまけても、裸ならば生き返ったあとに痕跡が残らない。だから裸で飛び降りる。そして死ぬ。生き返る。
はじめて飛び降りたときは怖かった。生き返るのはわかっていても膝が笑った。足がすくんだ。地上数十メートルから真下をのぞいたときには全身の震えが止まらなかった。
目をつぶったまま前方に倒れる。堕ちる。衝撃。痛い。死ぬ。生き返る。仰いだ夜空には星の光。月がきれいにみえる晩だった。
あたしは飛び降り自殺を好んだ。はじめは痛かったけれど、慣れると重力によってもたらされる人体がけっして抗うことができない絶望感によるカタルシスが気持ちいいからだ。ちなみに、あたしは自分が落下→着地したときの音を聴いたことがない。一説によればパーンッという小気味良いサウンドが響き渡るとか。
これは又聞きなんだけど、ひとが死んだあとに「あの世」で最初にやることは「文字を習う」ことらしい。生前、死後の世界に詳しい俳優が言っていたらしい(ややこしいな)。本当かな? あたしは数え切れないほど死んでいるけれど「あの世」とやらに行ったことがない。だから知らない。
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